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第7話
ーー次の日
(確認だからな。確認)
あれから何度かあのトイレに確認しに行ったが、肝心の紙袋男はいなかった。むしろ、失態を犯したにも関わらず、チームに心配されてしまったほどだ。
「とにかく頑張れと言われてもな……」
昼休み前に先輩がくれたぷるぷるゼリーの缶と昼飯のタッパーを手に廊下を歩いていく。
五階にある開発営業部の実験室から三階にあるトイレまではかなり遠い。二階の差もあるが、男子トイレは十階あるビルのうち四つしかなく、その数は下の階に集中している。端と端に位置するためか歩いていくしかない。
(そういえば、牛島さんが所属する第一営業部はこの階だったよな)
うちの営業部は三つに分かれているが、第一は外国に売り込む仕事が多いためか経歴もエリート揃いだと聞く。牛島さんも英文の有名大学卒だったはずだ。
「え〜〜。またサンの奴らやったの??今月何度目〜〜?」
「エリカ、声大きい!うん、イマカレがさそれのリーダーやってたみたいで〜。もう捨てよっかな」
「マミこそ、腹黒〜!」
遠のいていく高い声でさえ両耳から心を攻撃していた。
(問題を起こした本人とはいえ、お世話になった大切な部署だからな……)
そんなことを考えているといつの間にか男子トイレについていた。今日は中から音さえ聞こえない。また誰もいないんだろうか?
「お邪魔します……」
別に言わなくてもいい挨拶をし、手洗い場にタッパーなどを置いて入る。すぐさま奥の個室に目を向ければ扉は閉まっており、何故か安心感が込み上げてきた。
「おい、なんだこれ……」
そんなことを思ったのは早すぎた。個室の扉には『本日予約済』と有名店のような張り紙がされていた。マジックで書かれた丸文字の下には鉛筆なのか薄い文字で『昨日の方は扉を三回叩いてください』なんて書いてある。
なんだこれは。本日二回目の言葉をごくんと飲み込み、書いてある通りにした。
トン、トン、トン。
「昨日伺った者です」
返答はない。誰かの悪戯だろうか?もしくは新種のメッセージでこのトイレは故障中なんだろう。
「いや。そんなわけあるかい……」
俺は何をしているんだ?もう一度ノックしそうになった拳を下げ、阿呆らしいとその場を離れようとしーー
キィ……ッ。
ゆっくり開いた扉から姿を現したのはスーツのジャケットで大きく前開きし、パツパツとしたカッターシャツに青いネクタイ、ズボンの上からははみ出した肉が乗っていて、
「か、紙袋男!!」
俺がそいつの名前を叫ぶと紙袋男は胸の前で手を合わせていた腕を勢いよく下ろした。
「ああ、すまん」
悪気があった訳ではないとその場で頭を下げた。うん、俺は一体何をしているんだ。そう頭が言ってる。
キュッキュッ、キュッ。紙にマジックを走らせる音が聞こえ、顔をあげると小さなホワイトボードに何やら書いていた。
「ん?昨日は、すみませんでした?」
?の後ろに泣いている丸顔キャラを描いている。ぺこりと紙袋男は頭を下げるとまたペンを走らせる。
「僕はこのトイレに現れる女神兼トイレの花男です??」
ますます意味深だ。自らそんな異名を名乗る者なんて特に。
(心当たりがありすぎて黒歴史だがな)
「あの方々は僕にお願いをしに来ただけなので何にもないです」
またすぐに書き足す。
「ですが、あなたの優しさは嬉しかったです。お礼をさせてください……。お礼?」
彼はホワイトボードを床に置くのかと思いきや、
「お、おい。何すんだ!?」
膝をつき、俺のチャックに手を掛けた。
「やめろ…っ!!」
そんな静止の声も聞かず、紙袋男にさらにボクサーパンツと一緒にズボンを下ろされてしまった。ぼろん。己のモノが彼の顔の前に姿を現す。熱い鼻息が当たり、ぞくりとした何かが背中を流れる。
「あ…ぅ、むっ」
「っ、あ……!?」
ぷっくりとした小さな唇が開き、咥えられてしまう。口内はしっとりと熱い。離せとそいつの頭を押さえるが、腰に腕を回したせいで離れない。
(なっ、んだこれ!?)
肉の厚い柔らかさを持った舌を使い、ねっとりと中で裏筋をゆっくりと舐められる。アイスキャンデーを舐めるような仕草かと思いきや、先端の穴にぬるぬるとした衝撃が走った。
「ふっ、ぁ……なっ……!」
絶対に入らないであろうそこに、何度も何度もこじ開けるかのように舌を動かす。
(これ以上されたら……無理……ッ!!)
ジュクジュクとした卑しい水音がトイレに響く。今、ここで誰か来たら確実に警備員を呼ばれるだろう。
しかし、この手の刺激は感じたことがなく、快楽の渦に包み込まれて頭が真っ白になる。さらに言えばここ最近は落ち込むことが多くて抜いてさえいなかった。
「……ッ、なっ!?」
ごぼっ。その音が聞こえた途端、肉棒がもっと熱いとこへと誘われた。上下に動きを与えられ、先端は彼の喉ちんこを嫌でも弄ぶ。
「ふ、っ…ふ、お"'…ッ!!」
「ほ、っ…ひ、くだ……ふぁ……」
「お"っ、ふ、ぉ……ッ♡♡♡♡!!!!」
目のそばで火花が散り、身体をしならせ、口内に白濁液を放った。脱力感が呼吸する度に全身へ広がり、柔らかい髪が指から離れていく。
「はーーっ、はっーー……!!」
「っ、はっ…、…ん……ぐ、」
ん?下部でくちゅくちゅと聞こえてくる。口の端から溢れた涎を飲み込んで視線を下に向けると、紙袋男は袋の中で何やらもぐもぐとしていた。
「おま……っ、まさか……っ!!」
胸の前で両手を握りしめ、ぶるるるっと震えながら大きく顔をあげ、飲む。苦液が短く太い首の流れる様子に心臓が鼓動する。なぜだ?余韻に浸ったのか正面に向き直した彼の口元の紙袋の茶色が濃く濡れていた。
彼はまた床のホワイトボードにペンを走らせる。今度は長いのか間違えたのか途中、指で文字を消しているのが見えた。もう、その時には脳もクリアになっていた。
「お前、いきなりなんだ!?いい加減にしろ!!」
ボードに集中して意識が逸れたんだろう。勢いよく掴んだ茶色紙袋は輪郭も曲げ、俺の手により上へと引っ張られた。
「……っ!!?」
男は驚きですぐに顔をあげた。艶のあるブラウンの毛はくせっ毛ではあるが、柔らかい。髪色と同じ太眉。血色のよい大福顔が現れる。二重で大きく透き通った瞳の色に吸い込まれる。
「……綺麗だな」
つい、ポロッと本音が出てしまっていた。
男はすぐに顔全体を赤く染める。りんごだった。
「な、なっ……、なっ……!!」
「って、そうじゃねえ!!お前、さっきのペッとこれに吐き出せ!あんな……ーー」
無音で鈍い衝撃が下腹部から走り、その場に蹲る。出したハンカチも床に落ちてしまっていた。クリームパンならぬグーの手を生身のまま受け止めてしまったのだから尚更だ。
震えながら立ち上がった元紙袋男は大きな目から大粒の涙をこぼしていた。
「へ……へ、変態ですっ!!」
昨日と同じ高い男声がトイレに響き、個室を飛び出していってしまった。
変態なのはどっちだよ……!!
俺の小さな悲鳴は誰にも届かなかった。
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