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第10話
「お前!!」
家族も大事にするのが社内目標である我社の中で土日は必ず休みであるが、営業開発部は仕事内容からなかなか休むことが出来ない。
いつもなら若い女性社員が話してそうなテラスや営業部付近を大股で走っていくとすぐに水色つなぎを着た丸々とした背中が見えた。
ーー屋上
「食え」
ベンチに男二人腰掛けても狭いが、はみ出る肉を横目に風呂敷に包んだタッパーを目の前に差し出した。
しかし、紙袋男は俺とは反対向きに顔を背けた。
「何も変なもんは入ってない。なんでもいいから食え」
今度は相手の膝の上に置く。さすがに悪いと思ったのか、視線が動いているのが頭上から分かった。
「いら……」
ぐ、ぎゅるるる〜〜!!
「お前の腹の虫を無視するなんて可哀想じゃねえか。ちょうど十二時だ。食え」
もう一度タッパーを顔近くまで持っていくとゆっくりと視線が昼食に向けられる。彼はそれを小さな手で受け取り、膝の上で上箱を開けた。
「わっ……!!」
声のトーンがあがり、心の中でガッツポーズをする。
「半分は昨夜残ったケチャップライスをコーンで混ぜ、正方形に切った薄焼き卵を乗せたミニオムライス。末っ子である瑠々 のうさぎちゃんアート付き。もう片方にはアスパラをベーコンで巻いたものと、星型に切った人参とあえたポテトサラダ。特売で買った唐揚げ三つも入れた」
ごくん。飲み込む音が聞こえ、「どうぞ」と催促した。
割り箸ではなく、ミニスプーンを手に持ち、ミニオムライスを半分もとって口に入れた。
もごもご。もぐ、っ。もぐ。
どうだ?なんて言えず、固唾を飲んで待っていた。
「……っ、はむっ」
第一感想は無し。次はベーコン巻を一口食べた。
もぐ、もぐ。もっぐ……ごきゅんっ。
その音が聞こえたが最後、何の音も発せず沈黙が訪れる。嘘だろ?不味かったか??今日は真理 と三樹 の誕生日だから気合いを入れて作ったんだが。
「……ふぁあああ」
「えっ!?ど、どうした!?」
突然の鳴き声にどうしていいか分からず、思わずその場で立ち上がる。男は腹で語り合うというのはもう古いのか!?
しかし、そんな俺の心配もよそに彼はこっちに振り向いて、
「すっごく、美味しいです……!!」
「……ッ!!」
「このミニオムライス、卵が濃くてご飯の柔らかさもちょうどよくて……!!甘いコーンと酸っぱいケチャップが良く合いますね!ベーコンと塩とアスパラと青青しくも隠された旨みとよく合って……美味しいです!」
向けられた笑顔は二回会った顔よりも生き生きとしており、摘めるくらい膨らんだ笑顔をしている。夏に咲くひまわりのような明るさも感じる。
急に流暢になった。そんなツッコミをすることなんてなく、この間と同じ胸の中がきゅんとした。
(きゅん?)
「これも、これも、美味しい〜〜!!癒しです〜〜!!」
握った両手をブンブンと降っているその様子はまるで子供のようで、
「ふっ……。ふはははっ!!」
見ているこっちまで笑顔になってしまった。
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