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第11話
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さん」
タッパーを風呂敷に包み、膝の上に置いた。ぷるぷるゼリーが腹をみたせてくれるとは思わなかったが。屋上の自動販売機にあるということは人気なんだろうか。
俺たちの間に流れる空気は重たくなく、食後の安堵感によく似たものだった。
「あの時はすみません」
「お前、それしか言えないのか?」
お互い前を向いて話していた。また、すみませんが隣から聞こえてきた。
「僕の名前は恵花 栄太 。恵の花に栄、太です」
「俺は真城 一樹。真実の城に一つの難しい方の樹だ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
また沈黙が訪れる。日本人には自分の会話の終了するために沈黙を使う、とどこかの図書で読んだ気がするが、俺にはあまり似合わない気がした。
「お前、あそこで何をしているんだ?」
社会人三年目の癖して空気が読めない奴だろう。まだ上手く使えこなせてはいない。
「核心を突いてきますね」
どこか呆れたように笑っていた。根は良い奴なんだろうと心のどこかが言ってる。
「察しの通りです。僕はあそこで肉便器をしています」
「にくべ……ッ」
「ワードがキツすぎましたか?うーん。性処理機ではありますが、セフレではありません。一度繋がったお客さんとはなるべく繋がらないようにしています。皆さんの願いを叶えるというのは誰かがあとからつけた信仰みたいなもので……。でも、僕はそれに乗っかけしまいました」
別に自暴自棄でもない、事実が淡々と彼の口から流れる。最後は申し訳なさそうにまた笑った。
「…………バイトだったんだな」
「はい。掃除のバイトをしています。普段は週末だけですが、女神の仕事が来てからは朝に担当を入れるようにしてます」
「紙袋は保険か?」
にっこりマークの紙袋が脳内に浮かぶ。あれを被ってヤっているということは正体が誰にもバレないためなんだろう。
俺の問に恵花は少し口を噤み、顔を伏せた。
「……内緒です。秘密だった方が生きやすいこともありますから」
眉を寄せ、困ったように笑う顔はどこか恵花には合わないと思ってしまった。
「今日はありがとうございました。では……」
「恵花」
ベンチから立ち上がった恵花に声を掛けたのはなんだったんだろうか。立ち上がった瞬間、そんなことを思ったけれど体と心は不思議と恵花を呼んでいた。
「週末、また一緒に食べようぜ」
サイドとして果物が入っていた小タッパーをカラカラと鳴らす。それを見て一瞬大きく目を見開いた恵花はまた顔を真っ赤なりんごになった。恥ずかしそうに視線を動かせつつも、
「よ、よろしくお願いします……!!」
と、瞳の星を輝かせながら頭を下げた。
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