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第13話

ーー三日目 来ない。恵花が来ない。 最初は体調を心配し、休憩も兼ねてあのトイレに行ったが掃除の管理マークにもう丸を付けた後だった。 連絡を取ろうにもあいつの連絡先も学校も何も知らない。そうだ、あいつはまだ学生なんだったな。いつぞやの昼に休学中であるが大学に行っていると話していた。 (何も知らないんだな。俺) それなのに昼飯を一緒に食べて、昼休みをずっと過ごしていた。これではまるで浮かれてたようだ。 (浮かれた?この俺が??) きっとあいつは食いしん坊で、感想を率直に言ってくれる奴だ。そうだ。これは弟や妹たちに食べさせる兄のような感じだ。 恵花の楽しそうにご飯を食べる様子が浮かぶ。 箸で鮭を食べようとしたが、焦げたせいか力を込めないと切れない。 (しかも……) 「パッサパサ……」 なんだこれ。墨カスかよ。噛めば噛むほど虚しくなり、すぐに弁当箱を閉まった。 「真城クン」 ハスキーな声が背後からし、振り返ると小鳥遊リーダーがいた。 「隣、いいかしら?」 「え?ええ…っと」 許可を得る前に彼女は同じベンチに座り込む。白衣に流れる金髪は風に靡いていて、かつ、背筋はピンとしていた。 「月曜日ね」 コンビニのツナマヨおにぎりを頬張りながら食べている。表情は変わらない。 「ですね」 「私は月曜日が一番好きだわ」 「なぜです?」 「帰ったらずーっと好きなテレビが放送しているもの」 「……え、えっと」 「バラエティーには好きな構成作家と好きな俳優がMCをしているし、ドラマは今注目している女優が出てるわ。深夜はくだらないバラエティーで笑えるし家族で好きなアーティストがopになってるアニメがあるし……」 「多趣味なんですね」 「ええ。それほどもないけど」 もっもっもっ。ハムスターなみの小さい一口なのに彼女はもう一個のおにぎりに手を伸ばしていた。無言になってもそれは面白いなと思ってつい見てしまう。 「なに?」 「いいえ!?よく食べてらっしゃるな〜と思い……」 あ、今のは女性に対して失礼だっただろうか? 「別に。私は一口小さいけれど、カレーは大皿で三皿食べるわよ」 「三皿!?」 「だからあんなに試食をしてもお腹は減るの。空腹を満たすのはどの世界だって食べ物なんだもの。もっと人間は感謝をするべきだと思うわ」 「そう……なんですか」 「ところで。最近の君、ミスが目立ってきたわね」 そうなのである。500ccのところを800ccまで入れてしまったり、チーズの粉と唐辛子を間違えてしまったりという、明らかに初歩的なミスではないものが多発していた。 「一旦注意したこと以上にミスが多いわ。来月には二つに絞ったものを披露会に出すから失敗は許されないわよ」 「本当に申し訳ありません」 その場に立ち上がり、深く頭を下げる。川岸部長にはいつも一緒に謝罪してくれるのはリーダーであった。何度頭を下げても申し訳ないくらいだった。 咀嚼音が聞こえなくなったのは数分もかからなかっただろう。 「惚れたのよ」 「へっ……?」 「あなたの何でも真っ直ぐ取り組む姿勢にね。不器用で素直過ぎるけれど」 褒められているんだろうか?小鳥遊リーダーは俺に視線を寄越さず、ただずっと遠くを見つめていた。 「今企画であなたが加入すると聞いた時はふざけているのかと思ったわ。ここは寺子屋じゃないのよ、と思ったわ。だけど、それ以上に真剣に取り組む様子は悔しいけど研修の頃から知ってる。私以上に早く出勤して私以上に遅く残っていたのは見てたわ」 彼女はほうじ茶を一口飲み、口をゆすいで飲み込んだ。 「今わかったわ。なぜ、あなたに私のプライベートが話したいかなんて。あなたが好きで、応援したかったのね」 「それってどういう……」 「真城 一樹!!」 「あ、はい!!」 突然の呼び声に屋上で昼食を摂っていた社員がざわつき出したのを肌で感じた。でも、それ以上に彼女の熱は強かった。 「全くミスミスミスばっかり!いい加減にしてくれるかしら?ここは小学校ではなくてよ?」 「は、はい…!」 「だったら、とっととそのミスの根源を治して来なさい!!」 思ってもいなかった言葉に下げかけてた頭を上げる。胸を張り、綺麗な人差し指を出口に向けていた。 治してくる。その言葉にこころなしか体が暖かくやっていく。 「小鳥遊リーダー」 「早く行きなさい」 「リーダー。ありがとうございます」 「それを言うのは根源を治した後よ?」 「……はい!!」 グッと背中を押され、俺は振り返ることなく階段を降りていった。

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