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第6話

「あっあの、田村さん…!奢って頂かなくても…!」 食堂を出た二人は会社へと向かう。 一緒にレジに並んだとき無意識に田村は今井の代金まで支払った。 田村に奢られた形になった今井は、恐縮しっぱなしだ。 「良いんですよ、これくらい。安いもんだし」 「は、はあ…」 何より調査官という特殊な人種にも普通な面があったことを知れて面白かった。 田村が会社のドアを開けようとしたとき、今井が話しかけてきた。 「あの、僕と昼ご飯食べたことウチの奴にも皆さんにも言わないでください」 「へ?」 田村は振り向いて今井を見た。 「本来、調査対象の職員さんとはあまり親しくしないよう言われてまして…何と言いますか、その…」 大袈裟に言えば癒着するからか。 仲良くなれば当然、良くないことを考えるようになる。 ただそれを面と向かって言ってくる今井に、何だかムカッ腹が立ってきた。 「…分かりました、お困りになるでしょうし」 前を向き、ドアに手をかけたまま田村は少し乱暴に言い放つ。 「あ、あの」 流石に空気を読めたのか今井が慌てたが、田村はそのまま先に進んだ。 (何だあいつ) 仲良くなりたいとか思ってたわけでもないし、たまたま同席になって話が盛り上がっただけだ。 だけど良い気分になったとこにあの言葉は、水をかけられたような気分になった。 (別に怒ることでもねぇけどさ) 田村はポケットから煙草を取り出しながら、喫煙室へと向かった。

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