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第8話

駅前には田村がお気に入りの居酒屋がある。 こじんまりとした店でカウンター5席、テーブル4席。 女将が作る烏賊の煮物がめっぽう美味い。 なにかと呑みに行くときはこの店を使うのだが… 「何で休みなんだよ〜」 シャッターが下されたままの店。張り紙には「店主腰痛の為、臨時休業致します」と達筆な文字があった。 今井と駅前で待ち合わせして田村の案内でここまで来たが、まさかの休みでがっくり肩を落とす。 「この辺り他にいい店あったっけ…」 「あの、田村さん…焼酎はお好きですか?」 今井が唐突に聞いて来た。 「ビールより断然、焼酎派だけど…?」 「僕の家で飲みませんか?友人にもらった焼酎があるんです。『百年の孤独』が…」 「何と!」 田村は今やプレミアム焼酎となっている銘柄の名前を聞いて目を輝かして頷いた。 「良かった、飲み切れなくて…」 ヘラっと笑いながら、先導して行く今井。 おつまみをコンビニで購入して向かう。 「つまみだけでいい?腹、減らない?」 「簡単なものでよければ、作ります」 「何と!!」 ここにも別の顔があったか、と田村は驚いた。 駅から徒歩で数分のところに今井の家に到着した。 到着するやいなや、料理に取り掛かった今井。田村はぼんやりと室内を見ていた。 (初対面じゃないけど楽々と人を家にあげるんだな) 田村は相当の友人じゃないと滅多に他人を部屋にあげない。同僚はまだあげたことなどなかった。 (性格の差かなあ) 人が良さそうな今井は、きっといつも宅飲みをしているのだろう。 しばらくすると、美味しそうな香りが部屋の中に漂って来た。 「お待たせしました…!」 出された料理を口に運ぶとこれがまた美味い。 「これ、素人のレベルじゃねえよ、うっまーー!!」 田村がガツガツ食べるのを見て今井は笑う。 「そんなに美味しそうに食べてもらうと嬉しいですね」 でん、とテーブルに鎮座した焼酎を注ぎながらとりあえず乾杯する。 「何の乾杯だコレ」 「うーん、お疲れ様…ですかねえ、いろいろありがとうございました」 お辞儀をする今井に田村はやめやめ、と手をふる。 今は楽しい呑みの時間だ。 仕事のことはやめとこうぜ、と田村が水割りにした焼酎を片手に笑う。 「でもってアンタの方が年上なんだから敬語はいいって」 「あ、ついつい…仕事モードで…」 頭をかきながら、今井も焼酎を飲み干す。 意外にもロックで飲んでいた。 「はーー、腹一杯!」 宅飲みの醍醐味、食べて呑んで横になる。 田村は初めての部屋で遠慮なく横になった。 3歳差とはいえ同年代の二人は学生時代の話や職場の話など、大いに盛り上がって 酒の量も相当になっていた。 「気に入ってもらって良かった」 料理が空いた皿を流しに持って行きながら、今井が言う。 「宅飲みなんて何年振りかなあ…学生時代に戻ったみたいだ」 あの頃は毎晩のようにかけ麻雀しててさ…と思い出話に花が咲く。 大の字になって寝転んだ田村が大欠伸をする。 「飯食って、寝て…イヤー最高だなあ」 皿を洗っていた今井が水を止めて、笑いながら田村に話し掛ける。 「田村さん、人間の三大欲って知ってる?」 「お?食欲と、睡眠欲と…」 「性欲」 「お?」 田村の横にストンと座って今井がニヤリと笑う。 今まで見たことの無いような今井の目つきだ。 「それも、満たしちゃいましょうよ」

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