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第10話

 松田がシャワーから出てくるまでの間、座ったまま部屋を眺めた。誰かを招くには向いていない部屋。まるでわざとそうしているかのように見える。ついさっきまで住んでいた睦月の部屋は彼女の好きな色や小物で溢れていた。いかにも女の人という感じのする部屋だったけれど、生活感があって安心出来た。  ここは何もなさすぎて不安になる。出来ることならこの部屋に松田の好きなものを置いて色鮮やかにしてしまいたい。少しの間、ここで世話になるのなら小物の一つくらい置いても許してもらえないだろうか。 「あ、そうだ、布団」  シャワーから出てきた松田が思い出したようにクローゼットの中から未開封の布団セットを取り出してきた。 「干しとけばよかったなー。でも寝れるだけマシだよね?」 「使っていいんですか?」 「客用だからね」  まだ乾いていない髪から雫が落ちる。綺麗な光景なのに、泣いているように見えた。 「誰かが辛くて仕方ないときに、オレを頼って一晩でも寂しさを紛らわせることが出来たならって」 「……そういうことが、前にあったんですか?」 「あったよ。そのときは布団なかったけどね。だから急いで買ったんだ。ま、その後はずっと使われないまま、クローゼットの中で眠ってたわけだけど」  誰があなたを頼ったんですか。その一言が聞けなかった。なんとなく、訊かなくてもわかった。布団を取り出してベッドの横に布団を敷きだした松田を手伝いながら、かつて誰かがここで松田に救われたのだ。 「オレ、先に寝るから適当にシャワーとか使って。服も使っていいから」 「え、もう寝るんですか?」  彼女とのことを何も訊かずに松田はそそくさとベッドに入ってしまった。明日も仕事があるから休むのは当然だが何も訊かれないのは気を遣ってくれているからなのか。 「まずは睡眠。お腹空いてるなら冷蔵庫にあるもの食べていいよ。寝て起きたらきっと頭がすっきりしてるから、それから話を聞くよ。どうしても今、話したいなら聞くけどね」 「……いえ、寝てください」 「ん、じゃ、おやすみ」 「おやすみなさい」  どうか、彼に幸せな夢を見せてください。誰よりも人に対して優しい彼に、一時の安らぎを。  神様、どうか、どうか――。  願わずにはいられない。彼のことを知れば知るほど、彼の幸せを祈りたくなるから。

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