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【VD会話文SS】4♡聖南×葉璃 編(終)
◇ ◇ ◇
♡聖南 × 葉璃 編
聖南には何をしたら、何を贈ったら、喜ぶのか。
アキラさん、ケイタさん、恭也へのプレゼントはわりとすぐに決まったけど、聖南へ贈るものはほんとに何にも決まらなくて。
去年からずっと考えてたのに、全然思い付かなかった。
俺が見てきた限り、聖南は何か特別な趣味があるわけでも無いし、アクセサリーや時計は欲しければ自分で買っちゃう。
しかもそれらは俺には到底手が出ないような値が張るもので、途方に暮れた。
でも一つだけ、ひらめいた事がある。
「葉璃ー? 葉璃ちゃーん?」
「…………っ!」
……聖南が帰ってきた。
俺が唯一、克服しようとしても出来ない事を頑張ってみていた矢先だ。
焦げくさい煙の中に居る俺は、そっとフライパンの蓋を閉めて、雑に細かくなったまな板の上のキャベツを見た。
玄関先から俺を呼ぶ聖南の声がして、無駄だと分かっていながら息を殺す。
あーあ……聖南に怒られちゃうな……。
「あれ、風呂かな。……居ねぇな。おーい、葉璃ー」
「………………」
「……え、ちょっ、待っ……なんか焦げくさくねっ?」
わぁ……しまった。リビングの扉閉めてるのに、向こうまで匂いがいっちゃってるんだ。
聖南の慌てた声と足音が近付いてくる。
うぅ……叱られる五秒前。
勝手にキッチン使った事、謝んなきゃ……!
「葉璃! 何してた!」
「聖南さん……っ! あ、あのっ、聖南さんにご飯を作ろうと……!」
「は!? なんで! てかなんだこの匂い! 何か焦がしたろ! ヤケドは!? 指切り落としたりしてねぇか!?」
「俺は大丈夫なんですけど、……とり肉はヤケドしました……」
「とり肉がヤケド!? ……はぁ、葉璃ちゃん。約束したろ? 葉璃は料理しなくていい。俺が居ない間に何かあったらどうすんだよ」
「でも……」
「このキャベツどうやって切った? 包丁は葉璃の手の届かない場所に置いてたはずだけど?」
「切ってないです……ちぎりました……」
「ちぎっ……!」
案の定、怒られた。
でもこれは、必ず利き手じゃない方の手で包丁を握る俺を心配してるだけだって分かる。
壊滅的に料理の才能が無い俺は、〝一人で勝手に包丁を握るな〟と聖南から言い渡されていて、それは当然〝料理をするな〟に直結する。
その約束を破ってでも、どうにか出来やしないかと奮闘する事二時間。
出来上がったのは、ちぎったキャベツ(サラダ)と焦げたとり肉(ソテー)。
聖南のためにバレンタインディナーってやつを作ろうとして、うまくいったのはお買い物だけだった。
「聖南さんに喜んでもらいたかったんです……でも俺はつくづく料理の才能が無いなって思い知りました……」
「いやそんな凹むなよ。ごめん、怒ってるわけじゃねぇからな? 嬉しいよ。俺のために頑張ろうとしてくれたんだろ?」
「……世の中の彼女さん達はみんな、料理で彼氏の胃袋を掴むらしいので……」
「俺の胃袋掴もうとしたの?」
「……はい」
「なんで急に?」
「バレンタイン、だったから……プレゼントのつもりで……」
「ああ、それでか。そのヤケドしたとり肉はどこにあんの?」
「……丸焦げになったので、ごめんなさいしてフライパンの中で眠ってもらってます……」
「これ?」
「……はい」
うぅぅ……ごめんなさい、聖南さん。……とり肉さん。
スマホでレシピを調べた甲斐もなく、蓋を開けた聖南にも心配だけかけて、俺は何をやってるんだ。
聖南の言いつけを守らなかったから、こんな事になった。
とり肉さんだって、スーパーで俺と出会ったばっかりにあんな姿になって。
ちょっとキッチンに立っただけでこんなヒドい顛末になる俺に、聖南の胃袋は一生掴めないんだ。
もう二度と料理はしない。
悲しい誓いを立てた俺の隣で、コートを着たままの聖南がそっと蓋を開けた。
中身の惨劇を見て、箸を手に取る。
「えっ、聖南さんダメですよ、食べちゃ!!」
「なーんだ。言うほど丸焦げじゃねぇじゃん。これ使って一品作るよ」
「えぇ!? ど、どうやって……っ」
「バレンタインだからって、どっちがプレゼントあげてもいいだろ? 俺が料理して葉璃の胃袋掴むってのもアリっしょ」
「聖南さん……っ! かっこいい……っ」
〝ごめんなさい〟するしかなかったあのとり肉さんを、聖南が再利用しようとしてる……! すごい!
トップアイドル様なのに料理までこなせてしまう、完璧過ぎる恋人には敵わないや。
おまけに、俺の胃袋を掴もうとしてるなんて。
胸がキュンっと鳴った。
かっこいいなぁ、と聖南を見上げると、静かにフライパンの蓋を閉めて腰を抱いてくる。
なんだかすごく、やらしい顔付きで。
「てかさ、」
「……はいっ?」
「俺はもう、葉璃に心を掴まれてんだけど」
「い、胃袋じゃなく……?」
「人の心の方が、掴むの大変だと思わねぇ?」
「思い、ます……」
「俺は葉璃の心、掴めてる?」
「つ、掴めて、ます……っ」
「そう? じゃあ胃袋掴んだら完璧?」
「聖南さん、あの……っ、」
「何?」
「か、かお、近いです……っ」
「ん~、だってキスしようとしてるからねぇ?」
「……っ、!」
「葉璃、舌」
「ん、んっ……!」
屈んだ聖南と舌を絡ませた俺は、背伸びしてそれに応えた。
短く甘いキスをした後、張り切った聖南にキッチンから追い出されたものの膨れられず。
俺がプレゼントを贈るつもりだったのに、その日はバレンタインを理由に聖南の手料理を振る舞われて……。
俺には丸焦げにしか見えなかったとり肉が、見事な照り焼きチキンになってお皿の上に盛られた。
バラバラにちぎったキャベツは聖南の手によって綺麗に千切りされて、出し忘れてたミニトマトを添えられた立派なサラダに生まれ変わった。
ついでにお味噌汁とご飯まで付け足され、全部にかかった時間は四十五分。
ご飯が炊ける時間までにすべて終わってた。
手際良くこなしていた聖南はすごい。
俺の心と胃袋を掴んで、買ってきた食材を一つとして無駄にしなかったんだもん。
でもちょっと納得いかなかったのは、──。
〝葉璃ちゃん、二度と料理しようと思うなよ♡〟
聖南からもう一度、こう念を押されたこと。
( ˘•ω•˘ ).。oஇ
ღ畄ღ・∀・)Happy Valentine ♪*˚
♡聖南 × 葉璃 終
バレンタイン短編にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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