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「く…、くくくくく…っ」  運転席から、声を殺した笑いが聞こえて来る。  璃音が痛む額を押さえて見ると、ハンドルに突っ伏してドライバーが笑っていた。 「弓削…笑い過ぎ」 「も…、申し訳ございません、旦那様。  一部始終見てしまったもので」 「ご…、ごめんなさい。痛かったですよね?」  頭突きをかましてしまった氷室の顎を撫でると、苦笑いされた。 「いや、私もびっくりさせて申し訳なかった。  額が赤くなってしまったね」  父とは違う大きくしなやかな手で、前髪を掻き分けヒリヒリ痛む額を撫でられる。  もう片方の手は、痛さに滲んだ璃音の涙を拭う。 「あ…」  つぅ…と。  痛さが引いた筈なのに、何かが頬を伝った。  視界が大きくぼやけ、ほたほたと零れ落ちる。  ひくりと喉が鳴り、声が詰まり。  自覚が無いままに流れた涙で濡れた頬を、氷室が両手で挟むように触れた。 「両親が亡くなってから、ずっと張り詰めたままで来たんだろう。  ろくろく泣かずにいたね?  おいで…」いざなわれるままに氷室の膝に乗り、広い胸に顔を伏せる。 「もう、我慢しなくていいよ。」  ギュウっと抱き込み、氷室が手で目許を覆ってくれた。 「もう泣いていい。  我慢しなくていいから、思い切り泣きなさい」  感情を押し殺すように、声を立てずに涙を零す。  震える背中を優しく摩っていると、泣き吃逆が始まった。 「ん…あっ、父…さん、か…あさん…」  ずっと堪えていたものが、一気に溢れて止まらない。  14歳とは思えない小さな体を抱きしめて、包み込む。  手の下にかくれた目から次々涙が溢れ出て、氷室の掌や指を濡らしていく。  艶のある黒い髪に誘われるように恐る恐る前髪にそっと口づけを落とし、足元に落ちかけていたコートで璃音をすっぽり包む。  外界からシャットアウトされた事で、感情の箍が外れていく。 「な…んで?なんで死んじゃ…っ…。  いきなりっ、いきなり…二人がいなく…な…る…なんて…っ」  呟きは嗚咽に、嗚咽は号泣に変わる。  盛大に涙と声が漏れ、璃音は、今までしたことが無い泣きっぷりを披露してしまったのだった。

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