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 声が涸れるまで泣きに泣きまくり、氷室のスーツを涙まみれにした璃音は、緊張の糸がプッツリと切れたように眠りに落ちていった。  とく、とく、とく…  心地好い音が聞こえる。  温かく、優しい何かに包まれて、璃音は安らぎを覚えていた。  久しぶりに深く寝入った璃音は、大きな動物のフカフカの毛並みに包まれている夢を見た。  柔らかくて触り心地のよい毛並みは、艶やかで温かく、やんわりと包んでくれて、嫌なことを全て忘れさせてくれそうな気がする。  大きな肉球のある手でやわやわ頭を撫でられ、嬉しくて涙が出た…。  規則的な寝息が被せたコートの中から聞こえ、心得たように運転席にいた弓削が車を走らせる。  既に屋敷には連絡が済んでおり、璃音を休ませる部屋も整っている筈だ。  閑静な住宅街の奥にある、広大な敷地のガレージに逆輸入の黒い乗用車が滑り込む。  一番母屋に近いスペースに停車させると、弓削は恭しく主人が降りるドアを開けた。  氷室の膝に乗ったまま寝入った子供を受け取ろうと手を伸ばす。  そっと覗くと、コートの中で璃音は氷室のジャケットにしがみつく様にして眠っていた。 「おやおや…、これはまた可愛らしい寝姿ですねぇ…」  小さな子供が親にしがみついて眠る様な格好だったので、つい弓削は笑ってしまった。  自分を庇護してくれる相手にしか見せない様な、無防備な顔で璃音が眠っている。  何度か水上の家で見かけた璃音は、どちらかと言うと何を考えているか読みにくい、得体の知れない部分のある子供だった。  三歳年上の兄、瑠維の方が余程子供らしかった位で…。 「なんだか、黒くて毛並みのいい子犬か子猫に見えますね…」 「弓削にはそう見えるのか…。  私には黒豹か何か猛獣の子供に見えてしょうがないんだが…」 「そうですか?  年齢より体も小さいし、細くてあどけない感じがしますがね…。」  風邪気味の子供を放置するのも何なので、氷室と弓削は母屋に移動する事にしたのだが、抱き上げた躯は見た目よりも軽く、予想外に細くて氷室は驚いた。 『暫く食いっぱぐれて弱った黒豹の子供みたいだな…』  …と、何となく思ったのだが、亡くなった親友の忘れ形見を微妙に悪し様に言うのもどうかと思い、口にするのはやめておいた。

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