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 額に冷たいものが乗り、璃音は目を覚ました。 「………すまない。  起こしてしまったようだね」  額に冷却シートを貼っていた氷室が苦笑いした。 「いえ…、気にしないでください…。  ちょうど起きる所だったから、大丈夫…です…」  まだまだ靄がかかる頭のまま起き上がると、氷室が慌てて制止する。 「いけないよ。  まだ熱があるんだから寝てなさい」  寝かせようとする手をやんわりと押さえ、璃音は氷室に向き直る。 「すみません、ご迷惑をおかけして…。  でも僕は、社長にお渡ししなければいけないものがあるんです」 「私に?」 「はい」  傍らに置かれた制服のブレザーの襟の裏に、巧妙に隠された小さなケースを取り外し、璃音は氷室に手渡した。  それは、数枚のUSBメモリだった。 「………?」 「お渡しするのが遅くなってすみません。  父が氷室社長にお渡しする予定だった、次世代ハイブリッドエンジンの設計図と、車体のデザインが入っています」 「………!!  君が持っていたのか…!?」 「はい…。  葬儀のどさくさで、紛失しないようにしてたんです。  すみません、遅くなって…」  春先に氷室重工から発売される予定だった、ハイブリッド車の設計図…。  それは、璃音の父、晶(あきら)が生前氷室に確約していたものだった。 「すみません、どうしても風圧の処理が上手く行かなくて…。  お約束の日からズレてしまったんですが、受け取って頂けますか?」  まだ、幾分青白い顔のまま、璃音が説明する。  氷室が璃音の父に融資した4000億に対して、父が用意していたのは、化石燃料…ガソリンを一切使用しない、次世代型のハイブリッドエンジンと、基本車体数台分の設計図だった。 「でも、何故君が持ってたんだい…?  君のお父さんは、大学との共同開発している物があると言っていただけで…」 「それ、僕なんです」 「………はい?」 「大学の研究室の一部に、僕専用の部屋があるんです。  それで、レアアースとガソリンを使わない、次世代型ハイブリッドエンジンの設計をしてたんです。  全天候型の発電タイプなので、予想外に手間取ってしまって…」  氷室は目をしばたたく。  14歳の子供が、ハイブリッドエンジンの設計をしていた?  荒唐無稽もいいところだ。

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