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「"体で返す"って、どうするんですか…?」
「あ、いや、今のは言葉のあやで…。
忘れてくれ」
「教えてくれたら忘れます」
長い睫毛に囲まれた黒い瞳が氷室を捉える。
「何と言うか、その…」
「私から説明申し上げましょうか、璃音様」
口ごもる氷室の代わりに、秘書の弓削が口を開いた。
「体で返すというのは、文字通り借金のカタに自分の体を差し出すんですよ、璃音様。
夜ごと体を繋げ、相手を悦ばせる事で踏み倒す分の代償を払うんです」
「…でも、僕は男です。
社長さんをどうやって悦ばせられるんですか?」
「保健体育で習われましたか?
男女の間ならば、体を繋ぐ行為ができますね?」
「はい」
「男性同士でも出来るんですよ。
耳をお貸し下さい」
弓削が璃音に耳打ちをする。
「男性同士なら、固くなったアレを、お尻に挿すんです」
「………」
璃音が一瞬固まった。
次いで、氷室と弓削を交互に見る。
「冗談だから、忘れていい。
まだ子供の君にしていい事じゃないんだから」
「…ほかの人が相手なら嫌ですけど、社長さんならいいです」
「………はい?」
思いがけない発言だった。
「こら、冗談でも、そういう事を言うもんじゃない。
弓削、身も蓋も無い説明をするな」
「僕…、社長さん以外は嫌ですけど、社長さんだけなら多分いいです」
「………だ、そうですよ?旦那様。
元々、旦那様はバイでらっしゃるから、ものは試しにどうです?」
「弓削!!」
「同じ相手と一ヶ月も持たない旦那様を落とす事が出来たら、借金もお兄さんの入院の事も、いっぺんに片付くかもしれませんよ?
どうです?璃音様。
借金を返す為に、貴方は体を売れますか?
勿論、身を裂くような痛みも味わいますけど」
「………何て言ったら解らないんですけど。
他の人だったらきっと嫌です。
でも、社長さんになら、そうされてもいいって思いました。
何でそう思ってしまったのかは解らないですけど…」
「話が早くて何よりです。
旦那様、私は席を外しますので、愛人契約の内容を詰めて差し上げて下さい。
では」
「弓削、無責任な事を言って、子供をからかったりするな!」
「いえいえ。私は本気でございますよ」
ニッコリと笑うと、弓削が出て行ってしまった。
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