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「………」  弓削は固まっていた。  主がリビングに忘れた携帯電話を届けに来て、思わぬ光景を見てしまったのだ。  ゲストルームからフラフラと璃音が出てきて、迷いもなく氷室の部屋に入って行くのを…。  しかも、璃音は殆ど目が開いておらず、眠ったまま歩いていた。  シャツからはみ出た脚や、隙間から見える胸元などに散った沢山の紅い印が、主の行状を物語る。 「相性どうこうなんて、よく言ったもんだ…。  か、かなりがっつり味わってるじゃないか…。  どれだけがっついたんだ…?」  その、がっつり食べられた璃音は、ベッドに腰掛けた氷室に近づき袖を引いた。 「どうした?眠れないのかい?」  氷室が怪訝そうに声をかけるが、璃音は無言で氷室の膝に乗り、背中に手を伸ばす。 「り…、璃音?」  向かい合わせで抱き着くようにして氷室にくっつき、すうすうと寝入る。 「随分と懐かれてしまったな…。」  半ば困惑気味の氷室は、暫く璃音を抱きしめてぼんやりしてから、璃音を引きはがす事なく寝てしまった。 「しっかり馴染んでるだろうが…」  ツッコミを入れたくなった弓削は、そのまま様子を見る。  璃音の寝息につられて、氷室が眠りに落ち…。  次第に璃音を抱きしめたまま、完全に寝入った。  すると。  璃音が静かに起き上がり、氷室の腕の中から抜け出した。  寝ぼけた目のまま氷室の体の向きを変え、寝やすい体勢に直してやり、毛布をかけ…。  さわさわと、優しく髪を梳いて、小さな子供を寝かしつけるように頭を撫でる。 「………」  暫く撫でてやり、氷室の寝息が穏やかになった頃、璃音も気が済んだのか電池が切れたようにパタリと寝てしまった。 「………」  弓削は、がっつり食べられまくった璃音が氷室を甘やかす一部始終を、開けっ放しのドアの外から見ていた。  それは正に、黒豹の子供が大型犬にじゃれついてる図にも見え、大層微笑ましいものだった。  二人を起こさないように、そうっと携帯をサイドテーブルに置きに行き、璃音が氷室の頭を抱えるように眠る姿を見て。  有利な筈の主人が、実はかなり分が悪いような気がして、弓削は真夜中にも関わらず大笑いしそうになった。 『どう見ても、旦那様が落とされるのは時間の問題じゃないのか…?』  そう、思わずにいられない弓削だった。

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