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 新月の闇をそのまま溶かし込んだ、それでいて艶やかな毛並みの美しい獣。  それが、目を閉じ、何かを夢中で舐めている。  それは、傷だらけのゴールデンレトリーバーだった。  血が滲む傷を優しく舐めてやると、不思議な事に傷がスウッと消えていく。  次の傷にも愛おしむように舌を這わせると、また一つ傷が消えていった。  時折、目を開けて犬を見つめるのだが、獲物を見る目ではなく、どちらかと言うと、子供や番いの相手を愛おしむような眼差しをする。  クルクル…  甘えるように咽を鳴らす。  クルクル…  労る様に、優しげに。  クルクル…  甘く、愛を囁くように。  鋭い爪を全て引っ込めた前足で、包み込むように犬を抱き込む。  大きな肉球の手の感触は、とても心地好かった。  金色の犬と艶やかな黒い獣は、少しずつ形が変わり始め、暫くすると人の形になった。  あちこちが傷だらけの氷室と。  愛おしげに傷を舐める璃音に。 「愛してる…。  だから、怖がらないで龍嗣。  僕の全部を捧げさせて…」  恭しく、心臓の上に口づける。  まるで、何かを誓うように…。  不思議で、切ない夢だった…。 「ねえ、龍嗣…?  僕の全ては龍嗣のもの。  カラダも、気持ちも、全部全部、僕は龍嗣だけに捧げたい。  僕が持ってる全てを、龍嗣に奪われたい…。  だから、今はね、こうして肌を重ねてくれるだけで幸せだよ。  例え龍嗣の気持ちが、僕に向いてなくて、兄さんに…瑠維に向けられてても…。  瑠維の代わりに抱かれてても。  今すぐじゃなくていいよ。  いつか龍嗣の気が向いて、僕を愛してくれる気持ちになったら、僕の全てを奪ってね…?」  白い肌と黒い髪、深い闇を溶かしたような瞳をして、寂しそうに微笑む璃音。  氷室に組み敷かれ、喘がされながら、切ない願いを囁いた。  あまりに切ない願いだったから、唇を塞いで舌を絡ませたら綺麗な涙が零れて、更に切なくなった。  体で返すか?と言いながら、お前は好みじゃないと、璃音の心を斬りつけた。  何とも傲慢なのだろう、自分は。  純真で、無垢で、健気で、素直な璃音を、何度も切り裂いた。  その贖罪すら求めない優しい獣。  傷付けてしまった償いをいつかさせてくれたなら…自分も全てを捧げたい。  氷室は、そう、夢の中で思った。

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