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「龍嗣だけしかいらない」
そう思っていた璃音を甘噛みした者達がいた…。
それは、璃音にとって衝撃だった。
何より、龍嗣によって与えられる快感とは違う、別の本能から引きずり出される感覚。
弓削との口づけは、璃音にとって恐ろしくもあった。
弓削以外にも数人、自分を噛んだ者がいて――龍嗣との愛人契約が解除されれば、全力で璃音を蕩けさせてみせると言っていた…。
怖い…。
自分が噛んだ事はあっても、噛まれていたとは、全く予想の範囲外。
ましてや、母を畏れて、誰も噛んでいないと思い込んでいたのだから…。
「璃音様?」
「はっ、はいっ!!」
弓削の声に、びくりとする。
「とりあえず、水上の者達の事は横に置いて宜しいかと思います。
余計な事を考えて、旦那様との事が拗(こじ)れるのは、私も本意ではありませんので。ただ…」
「ただ?」
「旦那様が貴方を手酷く裏切るなら、契約期間内であっても貴方を奪い取ります。
一番大事な貴方を傷付けられて、黙っていられる程、私達も我慢強くはありませんから…」
弓削は璃音を引き起こし、璃音の首筋を甘く噛み、そろりと舐めた。
細い首筋を舌がなぞり、もう一度噛まれる。
体を這い上がる、既視感と快楽に体が震えた。
噛まれた覚えが無い筈なのに、弓削の唇も歯も舌も、璃音を蕩けさせる。
それは、紛れも無く、弓削が璃音を噛んだ事があるのだと、暗に物語っている。
「いや……ぁっ…」
首を竦めた璃音の唇に、再びキスを落とす。
逆らえないまま、重ねられた唇に啄まれて、腰が揺れた。
チュク…チュクチュク…
唇と舌を貪られ、璃音自身もつられるように弓削の唇を貪る。
少しずつ、璃音の理性が蕩けて意味をなさなくなる。
「私達からは、決して璃音様に無理強いは致しません。
今は、ね…。
旦那様との契約期間内は、私は璃音様の味方で在り続けます。
なので、愛人契約についても、可能な限り璃音様に有利にいたします。
ご安心下さいね?」
名残惜しそうに深く口づけ、弓削が璃音の舌を吸い上げた。
「可愛い貴方を、いつか淫らに啼かせたい。
甘い唇を、もっと存分に味わいたいです。
叶わないかもしれないですがね…」
少し寂しそうに笑い、弓削は体を離した。
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