38 / 454

「龍嗣だけしかいらない」  そう思っていた璃音を甘噛みした者達がいた…。  それは、璃音にとって衝撃だった。  何より、龍嗣によって与えられる快感とは違う、別の本能から引きずり出される感覚。  弓削との口づけは、璃音にとって恐ろしくもあった。  弓削以外にも数人、自分を噛んだ者がいて――龍嗣との愛人契約が解除されれば、全力で璃音を蕩けさせてみせると言っていた…。  怖い…。  自分が噛んだ事はあっても、噛まれていたとは、全く予想の範囲外。  ましてや、母を畏れて、誰も噛んでいないと思い込んでいたのだから…。 「璃音様?」 「はっ、はいっ!!」  弓削の声に、びくりとする。 「とりあえず、水上の者達の事は横に置いて宜しいかと思います。  余計な事を考えて、旦那様との事が拗(こじ)れるのは、私も本意ではありませんので。ただ…」 「ただ?」 「旦那様が貴方を手酷く裏切るなら、契約期間内であっても貴方を奪い取ります。  一番大事な貴方を傷付けられて、黙っていられる程、私達も我慢強くはありませんから…」  弓削は璃音を引き起こし、璃音の首筋を甘く噛み、そろりと舐めた。  細い首筋を舌がなぞり、もう一度噛まれる。  体を這い上がる、既視感と快楽に体が震えた。  噛まれた覚えが無い筈なのに、弓削の唇も歯も舌も、璃音を蕩けさせる。  それは、紛れも無く、弓削が璃音を噛んだ事があるのだと、暗に物語っている。 「いや……ぁっ…」  首を竦めた璃音の唇に、再びキスを落とす。  逆らえないまま、重ねられた唇に啄まれて、腰が揺れた。  チュク…チュクチュク…  唇と舌を貪られ、璃音自身もつられるように弓削の唇を貪る。  少しずつ、璃音の理性が蕩けて意味をなさなくなる。 「私達からは、決して璃音様に無理強いは致しません。  今は、ね…。  旦那様との契約期間内は、私は璃音様の味方で在り続けます。  なので、愛人契約についても、可能な限り璃音様に有利にいたします。  ご安心下さいね?」  名残惜しそうに深く口づけ、弓削が璃音の舌を吸い上げた。 「可愛い貴方を、いつか淫らに啼かせたい。  甘い唇を、もっと存分に味わいたいです。  叶わないかもしれないですがね…」  少し寂しそうに笑い、弓削は体を離した。

ともだちにシェアしよう!