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 弓削が着替えを差し出してくれたので、璃音は怖ず怖ずと受け取り慌てて着替えた。  体のあちこちが軋むのか、璃音はぎこちなく服を着ている。  背中に散った氷室の印を見ると少しムカッ腹が立つのだが、璃音の意志を優先すると言った手前、我慢せねばなるまい。 『あの男を将来の恋人に選ぶあたり、璃音様の悪食っぷりも中々だな…』  だからこそ、璃音の母は一族の者を数人選び、幼い璃音の首筋を噛ませたのだが…。 『異様に濃い血の璃音を、深く愛し抜けるか?  もしかしたら、叶わない想いに身を灼く事になる…。  ましてや、今でも執着が強いお前達は噛めば更に執着は強くなる。  璃音を喪えば、間違いなく死ぬ。  本当にそれでもいいのか?』…と、聞かれ、迷わず弓削は是と答えた。  璃音に強い執着を持っていた他の者も、少しも迷わず璃音の首筋を噛んだ。  相手が手に入らない場合、どんな禁断症状が表れるか解った上で…。  愛しい相手に焦がれるあまり、狂い死んだり精神が灼き切れて枯れた様に死ぬ事もある。  それでも。  璃音を選んだ。 命を賭けてでも璃音が欲しい…それ程に執着していたから。 「弓削さん…」 「はい」 「僕を噛んだ人達は、何人いるんですか…?」 「私が知る限りですが、私を含めて男女合わせて六人です」 「そうですか…」  少し俯き加減の後ろ姿が、悲しそうに見える。 「皆、元気ですか…?」 「………?ええ…」 「本当に?」 「はい」  深く深く息をついた璃音は、着替えを終えて弓削に歩み寄る。 「執着が深いと、途中で死んでしまう人もいますから…。  僕が噛まれた事を知らなかったにしても、龍嗣と関係を持ったら、やっぱり皆は嫌ですよね…。  具合、悪くならないといいんですけど…」  俯いて、眉をひそめた。 「大丈夫ですよ。  私も彼らも、鬼夜叉に見込まれた人間です。  精神的に頑丈なのも条件の内ですから。  想い焦がれたとしても、枯れたり狂ったりはしない者ばかりです」 「………」 「大丈夫。  まずは旦那様を落とす方に専念して下さい。  皆、そこは納得済みですから」  暫く躊躇った後、小さく頷き、璃音は弓削の頬にそうっと口づけてから、部屋を出て行った。

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