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走り出した恋

 弓削が運転する車で向かったのは、郊外の大学付属の総合病院。  ガイドレーンに沿って血液内科病棟に入る。  璃音の兄、瑠維が入院している病室は、奥側の無菌室だった。  消毒作業を終え、白衣に着替えて中に入る。 「璃音、ゴメン…。  全部お前に押し付けて…」  ベッドに横たわる瑠維は、点滴投与を終え一息ついた。 「ううん、そんなのいいよ。  今は良くなる事だけ考えて…。  僕、瑠維が元気になってくれたら嬉しいんだから。  先生にも聞いたけど、だいぶ経過も順調だって聞いたよ?」  璃音が瑠維に笑いかけた。 「数値もだいぶ良いそうだし、退院も近いかも…。  だけど、本当にいていいのかな、俺…」 「そこは、気にしなくていいよ。  大事な親友の息子を私が追い出させたりしない。  入院費用についても遠慮は無用だからね?」  氷室が言い切る。 「でも…、会社の借金だってあるんじゃないんですか?」 「あのね、それ、どうにかなりそうなんだって…。  行方不明だった設計図も見つかったから、今、量産に入るかどうか会議にかかるみたい。  だから、かなり目減りするって聞いたんだ。  そうでしょ?氷室さん」  まさか、自分が愛人契約を結んだからとは言えないので、焦って弁解する璃音。 「そうなんだ。  だから、そんなにダメージになってないんだよ。  それに、親友の可愛い息子達を放っておくなんて出来ないだろう?  だから、私を遠縁のおじさんだとでも思って甘えてくれないかな…?」 「………?  氷室さんがそれでいいなら…。  でも、申し訳ないですよ」  げっそり窶れた顔を氷室に向け、瑠維が恐縮する。 「そんなに恐縮しなくても…。」  既に、璃音はボロが出そうで、喋る事を止めている。  氷室も、うっかり愛人契約の話をしそうで焦っていた。 「璃音もまだ中二だし、ずっとここに泊まる訳にも行かないよな…。」  まさか“氷室の屋敷にいて、昨晩ガッツリ頂かれてました”とも言えない…。  微妙に挙動不審になりかけて、マスクの下で口がパクパクしている璃音と氷室。  二人の後ろに控えた弓削は、可笑しくてしょうがない。 「それについても、璃音様の通学に支障が無いよう、氷室家で責任を持ちますのでご安心下さい」  弓削が助け船を出した。

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