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なるべく対向車から二人の姿が見えないよう、弓削は慎重にルートを選びながら車を走らせる。
助手席では黒猫のメカ"みあ"が毛を逆立てて前足をばたつかせ、身もだえするかのような状態になっていた。
『ちょっとおっ!!
後ろであの二人、何してるワケっ!?
まだ夕方にもなってないのよ~っ!?』
今にも後ろへ飛び掛かりそうな猫の頭を、弓削が撫でて宥める。
『お静かに…。
旦那様のエロ魔神スイッチが入ったが最後、食べ切るまでは止まれません』
リアシートからは、衣擦れと璃音の喘ぎ声、唇が合わさる音が響いて来る。
『いやあああああっ!!
信じられないワ、あのエロ魔神!!
璃音はまだ14歳なのよっ!?
あんなエロいベロチューするなんて、何考えてるワケぇっ!?』
涙をだばだば流しながら、猫が耳を塞いだ。
「…は……、…あ…ぅっ」
璃音の甘い声が響き、猫が身もだえる。
仕方ないので、弓削は自分のジャケットの中に猫を放り込み、運転に専念した。
『もうすぐ屋敷に着きますから、辛抱して下さい。』 主だけでなく猫にまで丁寧な応対をしてしまう、哀しい性の弓削なのだった。
チュ…ッ、クチュ…。
何度唇を合わせても足りない。
昨夜のように体を繋いで、存分に璃音を貪ってしまいたい。
璃音の理性を奪い取るように、舌を絡めるだけでは足りなくて。
氷室は璃音のコートの中に手を忍ばせ、胸の蕾をワイシャツの上から摘んだ。
「い…っ、あああ…んっ」
掠れた甘い声が上がる。
『きゃあああああっ!!
璃音、何されてるのよおっ!?』
弓削のジャケットの中で猫が暴れた。
ミラー越しの璃音は、全身を焦がす甘い疼きに、ふるふると震え、首筋を氷室に吸われている。
不意に。
その鏡越しに璃音と弓削の視線が合わさる。
羞恥と疼きで赤くなった顔が、泣きそうな顔に変わり。
『ごめんなさい…』
声もなく言葉を紡いだ。
涙が零れ落ちる璃音に向け、鏡越しに弓削も唇を動かす。
『私の気持ちは変わらない。
愛しています』…と。
その弓削の真摯な告白に、璃音の瞳が一瞬見開かれ、涙が一筋流れ落ちた。
愛しい男に愛撫される自分へ向けて、静かで灼けるような告白をした弓削への、精一杯の謝罪を篭めたような、哀しい涙だった…。
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