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急に反応を返さなくなった璃音に気が付き、氷室が体を起こした。
「璃音?」
ほたほたと流れ落ちる涙を見て、氷室が固まる。
「………璃音、どうした?」
ぐいっと涙を拭き、璃音が掠れた声で訴えた。
「人から見られる場所でなんて、恥ずかしいよ…」
本当は、見られるのが恥ずかしいんじゃなく…、弓削を傷付けたくなかったからだ。
自分が氷室から愛撫を受けて悦ぶ様を、弓削に見られてしまうのは嫌だった…。
物心がつく前に氷室の首筋を甘噛みしてしまったせいで、今、弓削達が苦しい想いをしている。
自分を責める事無く、甘く切ない口づけをしてくれた弓削。
その弓削を、自分が踏みにじってしまっている気がしたのだ。
氷室に抱かれ、それでも弓削を傷つけたくないという、浅ましい想いを持ってしまった自分を、弓削に見せ付けてしまうのは、嫌だった…。
「まだ、明るいのにっ、誰かに見られちゃったら、恥ずかしいよぅ…」
吃逆混じりの訴え。
嘘だ。
欲しいくせに。
ホントはもっと、氷室に吸われていたかったのに。
服を剥ぎ取られて抱かれたいのに。
肌を吸われて、アレを揉まれて、挿れられたいのに。
足を開き、いっぱい突かれて、中に出されて、感じたいのに。
泣いて流れを止めて、浅ましさを隠そうとする狡猾な自分。
自分の汚い所を弓削に見せ付けてしまうのが怖くなったのだ。
狡い。
自分は狡い。
その狡さを思い知って、怖くなっただけ…。
「璃音、ごめん…。
つい君が可愛くて…」
違う。
氷室が謝る必要なんか、何一つ無いのだ。
全ては、自分の我が儘なのだから。
「………っ、ごめ…なさい…っ!!」
泣き吃逆しながら謝る璃音。
璃音が謝らなければいけない相手は、氷室と弓削だ。
自分の身勝手さで、大の大人二人を振り回しているのだから。
「ごめん…なさ…っ」
氷室が、泣きじゃくる璃音を抱きしめ、唇を塞ぐ。
「ん……うっ!!」
舌が搦め取られ、深く唇が結び付けられて頭の中が白くなる。
愛しい男に口づけられて、嬉しくない筈がない。 喉元を啄まれて、嬉しくない筈がない。
魂ごと震えるような、嬉しさなのに…。
あまりの自分の狡さを思い知って怖くなった。
…それだけ………。
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