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住宅街を巧みにすり抜け、車が、氷室の屋敷のガレージに滑り込む。
弓削は何食わぬ顔で車から降り、氷室が降りる方のドアを開けた。
「ん……っ」
氷室の腕の中の璃音は次から次と流れ落ちる涙で頬を濡らしたまま、唇を貪られている。
深く舌を差し入れられ、半ば苦しそうに喘いで。
その姿が、弓削の庇護欲に火をつけた。
「旦那様…?
屋敷に着きましたが…」
肩を軽く叩くが、氷室は璃音と口づけるのに夢中で弓削の声が聞こえていない。
薄目を開けた璃音が、弓削に目配せをし、唇を離す。
再び口づけようとする氷室の額に、自分の額を当て、低く抑えた声で囁いた。
「………龍嗣」
と、呼び掛けると、氷室が止まった。
「龍嗣、弓削さんが困ってる」
かなり緩んでいたシートベルトを外し、璃音が涙を拭く。
氷室も、ばつが悪そうにシートベルトを外し、車外に出た。
体の向きを変えて服の乱れを直し、璃音も車から降りようとする。
が、泣き腫らした目で何かを探している。
「これですか?璃音様」
弓削はジャケットの中に放り込んでいた猫を、璃音に手渡した。
背中の毛を逆立て、猫は璃音の顔に猫パンチを食らわせる。
「バカバカバカ!!
アンタ、陽も高い内から何されてんのよ―っ!!」
反論のしようもなく猫に説教され、連続で猫パンチをされている璃音。
何となくいたたまれなくなり、氷室も屋敷の中に入って行った。
「…ごめん」
うなだれて謝る。
「アンタねっ、あんなベロチューなんか、されてんじゃないワよっ!!
聞いてるこっちが恥ずかしいじゃないのっ!!
年頃の女子の前で、なんて事されてんのよ―っ!!」
「年頃の女子…とは誰なんですか?」という突っ込みは、多分したらいけないんだろうな…、と、弓削は苦笑いする。
「ここいらが潮時だろう」と、璃音が立て続けの猫パンチを避けもせずに受けているので、手を伸ばし、猫を捕まえる。
「まあまあ、その辺にして差し上げて下さい」
じたばた暴れる猫をポケットに放り込む。
「ちょっと、何すんのよ!!邪魔しないでよ!!」
固まったままの璃音を引き寄せ、さっき璃音が氷室にしたように、璃音の額に自分の額を当てた。
お互いの吐息が混じり合いそうで、璃音の心臓が跳ねた。
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