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「璃音様は、水上の執着癖はご存知ですね?」
「…はい」
「殆どの場合、血族の人間を選ぶのは?」
「………?」
「……ご両親は、そこら辺をスルーされたようですね…。
水上の執着癖は血族に向けられるんですよ。
貴方のご両親も従兄妹同士での結婚でしたし。
普通の女性なら自分と近い遺伝子の男性を無意識に避けますが、水上の女性は逆に血族に惹かれます。
そういう執着癖の真逆に行ったのが、貴方なんです」
「僕が…?」
「そうです」
弓削は、噛み砕くように璃音に細かく説明をする。
「血が濃い者同士の間に生まれたのに、全く血の繋がりが無い人間を将来の相手に選んだ事が、私達にとっては驚愕だったんですよ。
非常に稀なケースでした。
ましてや、旦那様は付き合った人間と一ヶ月持たない、執着型の璃音様とは最悪の相性と言えます。
だからこそ、鬼夜叉は…荊櫻様は私達という保険を掛けた…」
「………」
「可愛い我が子の願いは叶えてやりたい。
でも、直ぐに関係が壊れたら、間違いなく幼い貴方は死んでしまうだろう…と、鬼夜叉が危惧したんです。
貴方の深すぎる情ゆえに…」
「深すぎる、情?」
「はい」
情が深すぎ、相手を愛し過ぎる。
身も心も全て捧げ、心酔した相手に棄てられたなら、多分命を失う程のダメージを受けるだろうと。
「水上の者であれば、一度体を繋いだ相手を裏切ったり、棄てたりはしませんが、束縛を嫌う旦那様であれば有り得る話なんです」
「………」
「一度体を繋いだ相手と、確実に一生添い遂げる。
それが水上の執着癖なんですよ」
「こんな子供の僕が相手だとしても?」
「ええ。そうです。
執着した相手に、死ぬまで囚われる事が一番の倖せですから」
同性でも、異性でも、死ぬまで囚われ、相手に狂う程に溺れる深い愛を捧げる。
それが一番の悦びだから。
「璃音様が自ら選んだ相手にそれだけの愛を捧げて、旦那様自身がそれを悦ぶのか拒むのかは私にも解りません。
ただ、昨夜の様子から思うに、決して体の相性は悪くない筈。
だからこそ、今は旦那様を落とす事に集中して欲しいんです。
もしかしたら、水上の血の因習から逃げ仰せる稀有なケースになれるかもしれませんから」
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