56 / 454

 何となく落ち着かなくて、氷室は書斎の椅子に座りながら頭を掻いていた。  寝入った璃音に口づけをしたまでは良かったが、調子に乗ってやりすぎた。  初心者の子供に、陽も高い内…しかも人前でディープなキスをしまくってしまい、泣かせてしまった上、いたたまれなくてガレージに放置してきてしまい…。  果てしなく、後悔しきりで。  自分の額に璃音の額が触れて低く囁かれた時に、心臓が跳ねなかったら、あのまま服を剥ぎ取り抱いていた。  …確実に。 「エロ魔神と呼ばれても、文句も言えないな…」  ガックリとうなだれ、自己嫌悪塗れだ。  コト…ッ  パタパタ…  小さな足音が微かに聞こえ、璃音がガレージから屋敷の中に入って来たのが解った。  その足音は、迷う事無く書斎に近づいてくる。 「………っ!!」  氷室の心臓がバクバクし始めた。  ぴたり。  書斎のドアの前で足音が止まる。  ………コンコン。  控えめなノックに、ドクリと心臓が跳ねた。 「はっ、はいぃっ!!」  裏返った声に、我ながら情けない思いになる。  そんな自分の前でゆっくりドアが開き、泣き腫らした目の璃音が顔を覗かせた。 「あの…、入っても…いい?」 「…いいよ、おいで」  内心、冷や汗がダラダラしているのに、余裕がある振りをして璃音を招き入れる。  手を伸ばすと左手を氷室の手に乗せ、怖ず怖ずと近寄ってきてくれた。  遠慮がちに膝の上に乗り、昨日、車の中で泣いた時のように抱きつく。  やんわり伝わってくる体温が、お互いをホッとさせた。 「ごめんなさい…。  僕、ミラー越しに弓削さんが見えて、パニックになって、それで…」 「いや、その…、私も歯止めが利かなくて済まなかった。  しかも、ガレージに放置してしまって…」 「ううん…。  僕が泣いてばっかりなのがいけないんだし。  ごめんなさ…」  下から覗き込む顔が余りに健気で可愛らしくて、背中を駆け上がる衝動に思わず唇を重ねる。 「ん…っ」  試すようにそっと啄むと、璃音もやわやわと啄み返し、一瞬唇を離す。  つつ…っ。  小さな舌先が氷室の唇を左から右へ優しくなぞった。 「う…っ」  氷室の背中に甘い痺れが走る。  小さな舌が唇に触れただけなのに、氷室の欲望に火がついた。

ともだちにシェアしよう!