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何となく落ち着かなくて、氷室は書斎の椅子に座りながら頭を掻いていた。
寝入った璃音に口づけをしたまでは良かったが、調子に乗ってやりすぎた。
初心者の子供に、陽も高い内…しかも人前でディープなキスをしまくってしまい、泣かせてしまった上、いたたまれなくてガレージに放置してきてしまい…。
果てしなく、後悔しきりで。
自分の額に璃音の額が触れて低く囁かれた時に、心臓が跳ねなかったら、あのまま服を剥ぎ取り抱いていた。
…確実に。
「エロ魔神と呼ばれても、文句も言えないな…」
ガックリとうなだれ、自己嫌悪塗れだ。
コト…ッ
パタパタ…
小さな足音が微かに聞こえ、璃音がガレージから屋敷の中に入って来たのが解った。
その足音は、迷う事無く書斎に近づいてくる。
「………っ!!」
氷室の心臓がバクバクし始めた。
ぴたり。
書斎のドアの前で足音が止まる。
………コンコン。
控えめなノックに、ドクリと心臓が跳ねた。
「はっ、はいぃっ!!」
裏返った声に、我ながら情けない思いになる。
そんな自分の前でゆっくりドアが開き、泣き腫らした目の璃音が顔を覗かせた。
「あの…、入っても…いい?」
「…いいよ、おいで」
内心、冷や汗がダラダラしているのに、余裕がある振りをして璃音を招き入れる。
手を伸ばすと左手を氷室の手に乗せ、怖ず怖ずと近寄ってきてくれた。
遠慮がちに膝の上に乗り、昨日、車の中で泣いた時のように抱きつく。
やんわり伝わってくる体温が、お互いをホッとさせた。
「ごめんなさい…。
僕、ミラー越しに弓削さんが見えて、パニックになって、それで…」
「いや、その…、私も歯止めが利かなくて済まなかった。
しかも、ガレージに放置してしまって…」
「ううん…。
僕が泣いてばっかりなのがいけないんだし。
ごめんなさ…」
下から覗き込む顔が余りに健気で可愛らしくて、背中を駆け上がる衝動に思わず唇を重ねる。
「ん…っ」
試すようにそっと啄むと、璃音もやわやわと啄み返し、一瞬唇を離す。
つつ…っ。
小さな舌先が氷室の唇を左から右へ優しくなぞった。
「う…っ」
氷室の背中に甘い痺れが走る。
小さな舌が唇に触れただけなのに、氷室の欲望に火がついた。
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