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新たな獣、登場

 瑠維が龍嗣を怒らせて、璃音が意趣返しに嬲られた日の翌々日…。  片足を軽く引きながら璃音がベッドから降りてきた。  まだ軽い貧血状態だからか、幾分青白く窶れた感がある。 「おはようございます、璃音様。  もう起き上がっても宜しいのですか?  まだお顔の色が冴えないようですが…」  ふらつく璃音に手を貸しながら、弓削が椅子を引いている。 「ありがとう、弓削さん。 まだ本調子じゃないけど、課題の提出期限が近いから出席しないと…」 「どちらの方でございますか?」 「それが、両方なんだよね…。  だから行かないと駄目と言うか…」  青白い顔のまま、璃音が苦笑する。  元々小さい顔だが、窶れたせいか顎も首も細くなってしまった璃音に、牛乳で煮出した紅茶を出し、弓削が盛大なため息をついた。 「どう見ても、まともに歩く事も危ういのですから、もう一日位は横になっていらっしゃっても宜しいのでは…?  課題であれば、私が配達致しますが…」 「…う―ん………そうしたいのは山々なんだけど、中等部のレポートの期限もあるし、災害救助メカの不具合を見てって教授からメールも来てるから、行かないと…」  青白い顔のまま、璃音が遠い目になる。  沈む様に椅子に座っているのだが、力を抜くと、そのまま転げ落ちそうな状態だ。 「…璃音様、どう見ても無理なように思います」  弓削は頑として譲らない。 璃音が嬲られた原因を作った瑠維に至っては、最早口出しも出来ないでいる。 「いや…、やっぱり行かないとね…。  ………あ……れ…?」  朧げな視界が回転した。 「璃音様っ!?」  弓削が立っているのと反対側に、璃音が転げ落ちる。 「危ないっ!!」  床にたたき付けられる寸前に、ちょうどダイニングに入って来た龍嗣が受け止めた。 「だから、起きるのは止せと言ったのに…」  血の気が引き意識が半分飛んだ璃音を抱き上げ、龍嗣がダイニングから出ていく。  いつもより、軽く感じるのは気のせいではない。  力無くもたれ掛かる身体は、あちこちがゴツゴツして、ここ数日で痩せた事を如実に物語っていた。  龍嗣の首筋に当たる璃音の額は熱い。  そこまで体の具合が悪くなる程に、散々責めたのは自分なので、龍嗣はいたたまれない気持ちになった。

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