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「貴方は何も悪くない。
番いの相手がいるのに、貴方の腕を求める私が悪いんですから…。
さ、もう少しお休みくださいね?」
次々零れる涙を愛しげに吸い取り、弓削は額に口づけを落とす。
あの夜、龍嗣に自分が抱かれる姿を兄の瑠維に見られた事より、弓削に見られた事が璃音にとって大きなショックだった。
足を広げ、龍嗣に跨がり後孔を貫かれながら、腰を揺らしている淫らな姿を。
指を絡め合い、龍嗣と同時に達して、白蜜を飛ばした醜い姿を、弓削に見せてしまった自分。
その後、龍嗣に嬲られ続けながら上げた喘ぎ声も、きっと弓削には聞こえていた。
それは、弓削の心を引き裂き、深く深く傷つけだろう…。
龍嗣から与えられる愛撫に勝てず、自制も出来ないまま乱れた、そんな汚らしい自分が許せなくて涙が溢れ落ちる。
「貴方は、本当に素直で優し過ぎる…。
知らない内に甘噛みした相手を思いやり、心配するなんて健気過ぎるでしょう?
そんな所もいじらしいと思いますし、可愛らしくて愛おしいですよ、璃音様…」
両方の瞼に口づけが落とされ、誘われるように眠気が意識を支配する。
トロトロと眠りに落ちながら、璃音はそうっと呟いた。
「ごめんなさい…」と…。
ゆっくり眠りに落ちた璃音に、弓削は毛布をかけ直した。
涙を指ですくい取り、額を優しく撫でてやると、少しずつ寝息が深くなっていく。
ベッドサイドに椅子を寄せ座ろうかと思った所に、しおしおとうなだれた瑠維が入って来た。
猫に散々雷を落とされ、自己嫌悪の嵐のようだ。
その猫は瑠維の後ろから歩いてきて、忿懣やる方無い顔をしている。
「あの…、璃音は…?」
「まだ熱が高いのですが、少し落ち着かれたようです。
ただ、まだ錠剤を飲み込んだりは出来ませんので、もう少し様子を見なければいけませんね…」
「………そんなに酷いのか…?」
「バッカじゃないのっ!?
そこで寝込んでる璃音を見れば、どれだけ具合が悪いか察しがつくでしょうよっ!!
アンタ、ホントに直情馬鹿そのまんまじゃないのっ!!
もが……っ!!」
尚も瑠維に雷を落とそうとする猫を捕まえ、口を抑える。
ここまでの剣幕で怒り狂う猫は、かなり久しぶりの事だなと、弓削は内心ため息をついていた。
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