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「まあまあ、落ち着いて下さい。  頭に血が上っていては、話になりませんよ」 「離してよ、忍っ!!  この考えなしがした意趣返しで、璃音がどれだけ酷い目にあったか…っ!!  一発くらい殴ったって、バチなんかあたんないワよ!!」  弓削に押さえ込まれてもなお、猫はじたじた暴れている。 「落ちついて下さい。  瑠維様や旦那様を殴って璃音様が回復なさるのなら、私がボコボコにしております」  微妙にザックリ言い放ち、弓削は続けた。 「丁度、璃音様は体調を崩されていた時に、旦那様に嬲られましたからね…。  普通の行為であればあっさり終わって軽度で済んだでしょうけれど、丸々二日間嬲られたら、ひとたまりもないでしょうね…。  ま、今夜一晩は絶対安静にしていただきますので、数日内には快復なさいますよ」  沈み込むようにして眠る璃音が目に入り、瑠維は下を向く。 「俺が八つ当たりしたから、璃音がこうなったって事…だよな…」  何となく腹が立った…。  自分が守って行こうと思っていた弟を食い散らかされるのは、心底癪にさわった。 それでドアを叩きまくったのだが、その結果が結果だけに、瑠維は段々いたたまれなくなってくる。 「まあ、してしまった事は取り消しも出来ませんから…。  旦那様の璃音様絡みの我が儘っぷりは、お分かり頂けましたでしょうし。  同じ事は、繰り返さないで下さいますね、瑠維様?」  コクコクと頷く瑠維に、弓削は苦笑いしながら封筒を差し出した。 「…………?」 「璃音様がお書きになられたレポートと災害救助メカの改善策です。  提出期限が今日でして、璃音様も気にかけてらっしゃいました。  ただ、突っ立っていらしても、璃音様が良くなる訳でも無いですし、いっそ罪滅ぼし代わりに、中等部と教授に届けて差し上げたら如何です?  私も璃音様の看病と事務とで身動きが取れませんから、届けて頂ければ大変助かります」 「………分かった。  中等部と大学の教授だな?」 「ええ。  お願いいたします」  レポートが入った封筒二通分を受け取り、瑠維は部屋から出て行き。 「渡す相手を間違えないように、ついてってあげるワよっ!!」  まだ憤慨したままの猫も駆けて行ったのだった…。

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