78 / 454
・
龍嗣を送り終えて帰ってきた運転手が、心得たように瑠維と猫を乗せて車を飛ばして行った。
住宅地の中、歩行者が少ないルートを選んだようだ。
同じ大学の付属高校にいるのだし、中等部と大学の研究棟ならば迷う事も無い筈。
万一、迷ったとしても、猫がついて行ったので大丈夫だろう。
璃音も深く寝入っているので、足早にキッチンに向かい、必要な物だけを手に取り再び璃音の元へ戻ると、弓削は備え付けられている冷蔵庫に収納した。
『…旦那様の口に入れずに取っておいて良かった…』
主に食べさせず、しっかり隠しておくあたり、弓削の優先順位が何処にあるのかが最近かなりおかしい。
「エロ魔神に食ワせるなんて勿体ないワよ。アナタが璃音と一緒に食べたらいいんじゃないの~?」と、猫が漏らした一言が、至極真っ当に聞こえてしまったのだ。
『ま…、いいか』
深く考えるのはやめにして、弓削は書類整理に勤しむ事にした。
龍嗣の香りに包まれて眠りながら、璃音はもう一つの香りに気がついた。
あまり自己主張はしないものの、甘やかな膚の香り…。
『弓削さん…?』
重い瞼は上がらず、手も足も怠くて動かない。
禁断症状で焦燥していた姿を思い出し、せめて手を握るだけでもしなければと思うのだが、指の一本も動かない。
『どうしよう…。』
眠りの波に飲まれそうになりながら、一生懸命手を伸ばそうとして、璃音はもがいた。
「ん………っ」
微かな声が聞こえ、弓削は璃音に目を向けた。
寝入ってから一時間近く経過しているが、顔が紅く染まり、息も少し浅い。
『熱が更に上がったのだろうか…?』
そう思い、少しだけ毛布を寄せてやると、毛布の下でもがいていた左手が、弓削の手に触れた。
『熱いな…』
いつも小さな子供並みに温かい手をしているが、今の璃音の手は、まるで燃えるように熱い。
パジャマも、汗でびっしょりになっている。
バスケットの中から着替え用のパジャマや下着、タオル等を引っ張り出してヘッドボードに置く。
洗面器に熱い湯を満たしてから、弓削は璃音のパジャマを脱がせた。
一度、軽く汗を拭き、次に熱い湯に浸して絞ったタオルで拭いてやり、冷却シートを貼り換える。
手早くパジャマを着せ、毛布でくるみ、ソファーに寝かせてシーツを交換した。
ともだちにシェアしよう!