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 とくん。  心臓が跳ねる。  何一つ自分を責めず、深い愛情を向けてくれる弓削の言葉に、心臓が射抜かれたような気がして。 「なんで…」 「…はい?」 「なんで、そんなに優しいんですか?  僕が…、僕が龍嗣のものにならなければ、弓削さんも、玲も、ほかの…皆も、傷つか…な…かったし、苦し…ま…なく…てもすんだのに…。  僕…が、龍嗣に…逆らえないから、弓削さん…だって、苦しくなって…。  んぅ………っ!!」  泣き吃逆をしながら話す璃音の唇を、弓削が塞いだ。  苦しくなって離そうとすると、襟足を掴んで尚も深く口づけられる。 「ん………ぅっ、んんんっ、………う…くっ」  顔を左右に動かし、弓削の深いキスから逃げようとする璃音。  舌を絡めても理性が飛ばずに、必死に離れようとしている。  酸欠でクラクラし始めたころ、ようやく弓削は唇を離した。 「………は…っ、…は…っ」  口をぱくぱくさせて、酸素を取り込もうとする璃音の耳に口を寄せ、弓削が耳たぶを軽く噛む。 「惚れた弱みと言っておきます。  あなたが旦那様に棄てられるか、あなたが旦那様を棄てるかしたら、本当に全力で落としにかかりますからね。  愛してますよ…」  甘く蕩けそうな顔をして璃音に告白しながら、ベッドの上で苦々しい顔をしている小鳥遊をげしげしと蹴りつけ、ベッドの上から落とした。  乱れたシーツや毛布を整えて璃音を横たえ、濡らしたタオルで小鳥遊が触れた部分を丁寧に拭く。 「まあ、さっきのは狂犬に噛まれたと思って忘れて下さい。  ただ、次に唇を許すのなら、抱かれる覚悟で許可しないといけませんよ?  玲はケダモノの部類に入りますから堪え性もありませんし、キスを許すと最後まで食べられてしまいかねないので気をつけて下さい。  ケダモノだけに、この男の行為は加減がありませんから、際限なく啼かされます。  その分、行為に狂いたいなら、この男を選べば嫌でも中毒になるくらいの快楽にいざなってくれる事請け合いですがね…」  苦笑いしながらパジャマの釦をかけ、璃音に毛布をかける弓削。 「ケダモノ呼ばわりばっかすんじゃねえ…。」 「おや、ケダモノでなければ何です?  ヤリチンとでも呼んでくれとでも…?」  うっそり笑って、冷ややかな応対で返した。

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