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「や………ヤリチンって…」
小鳥遊が流石に絶句した。
「おや…、それでもご不満なら、伏せ字でしか表現できない形容詞を、山のようにつけて差し上げましょうか?
璃音を泣かせた分、私は容赦はしませんからね?」
「………分かったよ…。もうあんな真似はしねぇ」
毒気が抜けた小鳥遊は、床にぺったりと座ったまま、白旗をあげる。
「焦燥して、璃音を嬲りかけたことも、ちゃんと反省するんですよ?
ほらほら、床に座ったままだと邪魔になりますから、さっさと立ちなさい。
はいはい、邪魔邪魔!!」
げしげし小鳥遊を蹴りつけてから、龍嗣の手前側の部屋の鍵を解除する。
ドアを開けてみると、猫メカの"みあ"が仁王立ちしていた。
「なんとなく、やな予感がしたから、人払いしてあげたワよ。
あなたらしくないワね、璃音を啼かせるなんて」
ひそひそ言いながら、部屋の中を伺う猫。
「私じゃありません。
ほら、床に座ってるあの男ですよ…」
「んまっ!!
小鳥遊の家のケダモノ息子じゃないのっ!!
まさか、アレも璃音の…?」
「はい…。というか、彼をご存知だったんですか?」
「ご存知もなにも…。
水上の一族で一番見境がないケダモノなのよ?
知らなかったのって、璃音くらいのものでしょ?」
ひそひそ話し合う一人と一匹。
いたたまれずに、小鳥遊がトイレに逃げた。
「………で?」
「なんです………?」
「勝算はどうなのよ?」
「勝算ですか?」
「他の番い候補や、エロ魔神に勝てそうなの?
特にあのケダモノなんかは、かなり危険だったんじゃないの…?」
器用に床に両足を投げ出すように座り、ベッドの上の璃音を見る。
「そうですね。
キスを許したら、一気に貞操の危機まで行きましたからねぇ…」
「簡単に食べられんじゃないワよ。
私はアナタが一番気に入ってんだから…。」
「おや、嬉しい事をおっしゃいますねぇ…。」
ふーっ、と息を吐き出す猫。
「特にあのケダモノなんかには、璃音を取られんじゃないワよ?」
「世の中がひっくり返ろうとも、渡しませんよ。
彼だけにはね…」
ニッコリ笑っているのに、弓削の目は決して笑っていなかった。
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