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狂い咲きの花
結局、璃音は四日間寝込んだ。
「おはよう」
ダイニングに璃音が入ると、龍嗣や瑠維、弓削が驚いて振り返った。
「ん……?」
怪訝そうに首を傾げる璃音は少しやつれた感は残るものの、子供子供していた顔から幼さが幾分抜けたような表情になり、寝込む前の容貌とは少々様変わりしていた。
「な…、何?
顔洗ったけど、何かついてる?」
「いや…、なんか寝込む前と顔が違うからさ、びっくりしたんだよ。
な、オッサン?」
「オッサン言うな…」
額に青筋を浮かせて龍嗣が新聞を畳む。
弓削と猫から出入り禁止を喰らい自分の寝室から閉め出された龍嗣は、仕方なく璃音の寝室で寝起きをしていたので、ほぼ三日ぶりに璃音の顔を見たのだ。
「お、おはよう、璃音」
「おはよ、龍嗣」
鞄を床に置き、軽く龍嗣の唇にキスを落とすと、璃音は自分の椅子に座った。
ワイシャツの衿元から覗く首筋は、熱で痩せたせいで余計に細く見え、今まではなかった喉仏がほんの少し自己主張している。
「いただきます」
少し掠れたままの声で言うと、雑炊を口に運び、ゆっくり咀嚼した。
「美味しい…」
ニコッと微笑む璃音の顔を見て、龍嗣だけでなく、弓削や瑠維、使用人達までが硬直する。
龍嗣に抱かれて啼く時とも違う微妙な艶っぽさが加味されて、倒れる前のストイックな印象とは違う。
そんな璃音の表情に、ダイニングにいた者全員の目が釘付けになっていた。
「…そんなに注目されると、ちょっと食べにくいよ…」
困ったように笑う顔に、全員が赤面して固まる。
「な……、なんで?」
給仕をしていた何人かが、「すみません、ちょっと…」とダイニングから出て行き、璃音にぬるま湯と薬を持ってきたメイドも、璃音と目が合うと固まり、ぎくしゃくしながらカップと薬を置いて逃げた。
「今朝の皆、何だか凄く変なんだけど…
僕の顔、そんなに変…?」
「いえいえ、とんでもございません。
いつも通りの可愛らしい璃音様のお顔です。
ただ…」
「…ただ……?」
「寝込まれる前より少しおやつれになられた分、何となく印象が変わられたかなと私は思うのですが…」
「……そう?
何にも変わらないと思うんだけど…」
ただ頬を摘んでグニグニするだけの姿すら艶っぽく、全員が硬直していた。
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