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控えの運転手達まで辞退を申し出たため、弓削が運転席に座る事になった。
リアシートに座った龍嗣と璃音だが、ゆったり構えるように座った筈の龍嗣が実は一番居心地が悪い。
璃音が教授や担任から出された課題の残りを片付けているのだが、ニコニコ上機嫌の顔が艶っぽく、自然に目が合う度に璃音の潤んだ瞳が心臓を射抜くようでどうにも居心地が悪いのだ。
『ちょっと、何なのよ、璃音のあの駄々漏れ状態は…!!』
弓削のジャケットの中に潜んだ猫が、龍嗣や璃音に聞こえない様に聞いた。
『思い当たる節はあるのですが、どうも今一つ確証が無いんです。
それに、あの様に上機嫌というか、ほろ酔いじみた症状があったのか聞いた事がありませんので…』
『仕方ないわね…。
確認が取れるまで、ワタシがついていてあげるワよ。
大学の部屋に誘導しておくから、そっちに迎えに来てよね…。
一応、護衛用に大型のメカを起こしておくし…』
『痛みいります…。
私も旦那様の予定を変えておきますし、別邸に誘導しますので、それまで何とか宜しくお願いいたします』
「行ってきまーす」
車内で弓削、龍嗣、猫が、それぞれ居心地悪い状態でいたことを知らない璃音は、ニコニコ上機嫌で車から降りて行った。
降り際、龍嗣の唇に軽く触れるようなキスをして行ったのだが、いきなり龍嗣を発情させてしまう程のものだったので、弓削と猫もかなり驚いた…。
「一応、病み上がりだから、ついて行ってあげるワよ」と、猫が付き添いで降りる。
いつもは煩いと感じる猫の存在が、今日はかなり有り難かった。
「お疲れ様でございました…」
「あ…、ああ…」
リアシートに沈み込むように座った龍嗣は、疲れきったような顔をしている。
「多分、今日は仕事も何も手に付かないと思いましたので、予定の大半を来週に振り分けさせて頂きました。
あと…」
「あと…?」
「璃音様のあの艶っぽさが駄々漏れ状態の原因がはっきりしないので何とも言えないのですが、私が思い当たる症状ならかなりまずいので今日は本宅ではなく別宅に向かわれた方が宜しいかと思います。
幸い今日は金曜ですし、月曜の祭日も含めての連休を、そちらで過ごされた方が無難のような気がいたします」
「………」
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