97 / 454

 大学の研究棟の七階…。  何度か足を踏み入れた事のある璃音の部屋の前に着くと、猫が待ち構えていた。 「良かった。来てくれたのがアナタで。  あのエロ魔神だったらどうしようって焦ってたのよ」 「車に置いてきました。  まずは璃音を宥めないといけないでしょう?」  猫と共に中に入ると、猫科の獣二頭が立ち塞がる。 「「グルルルル…」」 「誰彼構わず威嚇すんじゃないワよっ!!  味方だから、警戒を解きなさい!!」  猫に叱られ、おとなしくなった二頭。  黒豹と白いトラが道を譲ると、奥の椅子にもたれる様に座った璃音が見えた。 「り…、璃音様?」  茹で蛸のように赤い顔で、くったりとなっている。 「弓削さ…ん?  どうしよう…、僕、暑くて動けなくて…。」  浅い呼吸で半ば喘いでいる璃音から甘い肌の香りが立ち上り、傍に寄った弓削の鼓動が早くなった。 『こ………、ここまで駄々漏れとは…っ!!』  目の前がクラリと揺れ、視界が少し暗くなる。  構わず璃音を抱き起こすと、半分に割った睡眠導入剤とミネラルウォーターを、口移しで飲ませた。 「ん…っ、なぁ…に…?」 「ただの眠くなる薬です。  目覚める頃には熱も少し下がるでしょうから、ご安心を…」  弓削は自分のコートで璃音をくるみ、睡眠導入剤が効いてくるのをひたすら待つ。  その間にも立ち上る甘い香りが弓削を煽る。 「ん………っ」  暫くして瞼がトロトロと落ちだし、規則的な呼吸に変わった。 「……落ちましたね」 「…そうね。じゃ、連れて行きましょ?  ノワール、ブランカ、後はお願いね?」 「「グルルルル…」」  猫の言うことに返事をし、二頭は床のスイッチを踏む。  弓削と猫が廊下に出ると、部屋の入り口に鉄格子が落ち、ドアも自動的に閉まって施錠され、璃音の部屋の機密は確保されたようなので、弓削は璃音を担いだまま駆け出した。  車の中で待っていた龍嗣は、いきなり開いたドアに驚いた。 「旦那様、お早く!!」  弓削が担いでいた包みを龍嗣に押し付け、急いでドアを閉めた。  運転席に座り、キーを入れながら運転席とリアシートの間にシールドを出す。 「申し訳ありません、こうしないと事故になりかねませんので」  弓削は、荒々しく車をスタートさせた。

ともだちにシェアしよう!