110 / 454
・
同じ頃…。
突然鳴り響いたオルゴール音に、弓削は一瞬ぎょっとした。
璃音のブレザーに入っていた携帯を取り出すと、[着信・瑠維]と表示されている。
仲の良い兄からの着信なのに、メロディーに違和感を覚える弓削。
何故なら、[死の舞踏]という曲だったからだ。
訝しんでいるうちに着信が一度切れ、もう一度鳴る。
やはり、[死の舞踏]だ。
「もしもし…」
『もしもしっ!!璃音っ!?お前、今、何処にいるんだよっ!?』
苛々しながら怒鳴る声は、紛れも無く瑠維だ。
内心、動揺が隠せないまま、弓削は口を開く。
「申し訳ありません、瑠維様。
璃音様は、登校されてすぐに体調を崩されまして、ただ今臥せていらっしゃいます」
『な……っ、なんでアンタが応対すんだよ!!
璃音が具合悪いって言うなら、今、何処にいるんだよ!!』
「数ある別邸のうちの一つです。
本宅は、旦那様の寝室を改装中で騒々しいので、璃音様がゆっくりお休みになれませんから」
「ただいま、旦那様に抱かれて、存分に啼いてらっしゃいます」などと言えば、瑠維は完全に切れてしまうだろうから、敢えて真実はぼかした。
『俺に何も言わずに、あちこち連れ回すな!!
つか、身内の俺が看病するのが普通だろ!?』
「大変申し訳ございません。
緊急事態でございましたので、致し方なかったのです。
璃音様は熱が振り返しておりますので、未だお電話に出る事も難しいかと思われます」
電話の向こうでぎゃんぎゃん吠える瑠維に辟易しつつも、弓削は丁寧に受け答えをした。
「それに、臥せておいでの璃音様の枕元で、旦那様と瑠維様が鉢合わせとなりますと、璃音様がゆっくりお休みになれませんので、週末はこちらで療養という事にさせて頂きたいと存じます」
『な………っ、そんな勝手に決めるんじゃねえっつの!!
アンタ、わざと改装工事入れただろ!?』
「いえいえ。
そんな権限は私にはございません。
単に、璃音様の可愛らしい声が漏れて、先日の二の舞にならないように工事を入れただけです。
幸い、月曜の夕方には仕上がるようですし、その時間に合わせて戻るつもりですから」
『ホントに熱なのかよ?
俺の目が無いのを良いことに、アイツに食わしてんじゃねえだろうな!?』
流石に、ヤキモチ焼きの兄だ。
しっかり読んでいる所が凄い。
弓削は感服しきりだった。
ともだちにシェアしよう!