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苦々しい気持ちを押し止め、龍嗣がリビングを横切り、大きめのソファに腰掛けた。
「待たせてしまって済まないね。
すっかり寝入ってしまっていたから…」
ソファに座り、鷹揚に構える龍嗣。
寝入る前にシャワーを浴びていて良かったと、内心胸を撫で下ろす。
「こんな遅い時間だし、寝てたのはしょうがねえかも知れないけどさ…。
具合が悪いあいつを、あちこち連れ回すのやめてくれよな。
だから、県境ギリギリのここまで来なきゃいけなくなったんだからさ」
忿懣やる方ない風情で、瑠維が足を組む。
「だから、それは旦那様の部屋を改装中だからと、私がご説明申し上げましたでしょうに…」
「そりゃ聞いたさ。
だから、これ持って来たんじゃないかよ…」
バッグの中から瑠維が取り出したのは、フルーツのパックや缶詰だった。
「「……………?」」
「やっぱりな…。
あいつ、立て続けに熱出すと、フルーツ類しか受け付けなくなる時あるんだ。
それ、あんた達知らないだろ?
桃缶なんか、このメーカーの白桃しか食えないし、苺だって食べれるのと食べられない時があんだよ。
でも、そういうのって言いにくいし、あいつ、我が儘プーとか言われんの嫌がるからさ。
だったら、届けた方が手っ取り早いだろ?」
二人は璃音の意外な面に驚いた。
弓削に至っては、如何に璃音を手なずけるかの貴重な情報やも知れぬと、耳をそばだてている。
隠しておいた桃缶を後で璃音と食べようかと、内心うっそり笑った程だ。
『旦那様に食べさせずに取っておいた桃缶…、確か同じ物でしたね…。
ふふふ…。
おっと、いけない。
しっかりメモを取っておかねば…』
手帳にも、きっちり記入する弓削。
「一応、食欲が落ちた時に受け付けるものを一通り持ってきたからさ、冷蔵庫に入れさせろよ。
牛乳とか生クリームとか、悪くなっちまうし。」
「え、ええ。
こちらです。 どうぞ。」
弓削がキッチンへと瑠維を誘導する。
…と。
…カチャ………。
リビングのドアが開いた。
「林さん、どうかしま…
…璃音様っ!?」
てっきり、瑠維を送ってきたドライバーだと思い弓削は声をかけたのだが、入口に立っていたのは、紛れも無く璃音だった。
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