120 / 454
・
「璃音っ、お前、体は大丈夫なのかっ!?」
瑠維が璃音に駆け寄り、肩を掴む。
「………」
全く反応を返さない璃音。
「………璃音?」
俯き加減の璃音の顔を覗き込んだ瑠維が固まっている。
「お前…もしかして……寝ぼけてんの…?」
ゆらゆら立っている璃音は、眠ったままだった。
「………や…っ」
肩を揺さ振る瑠維の手からスルリと逃れると、フラフラと龍嗣の方向に歩いていく。
薄目を開けているものの、視界には何も捉えていない筈なのに、器用にもテーブルや椅子、弓削の事も避けて歩いていくので、瑠維は弟の行動に絶句している。
千鳥足とも違うが、ゆらゆらと歩く様は夢遊病患者にも見えた。
くんっ。
龍嗣の袖を指で掴み、軽く引く。
座ったまま動かない龍嗣に、目許を歪める璃音。
「どうした?眠れないのか?」
静かに声をかけると、ゆっくりと龍嗣の肩に手をかけ、膝に乗った。
「璃音…?」
龍嗣の脚に跨がり、向かい合わせで座ると、右の耳を広い胸に当てる。
「龍嗣…?」
とろんとした目の璃音が、龍嗣を見上げた。
「ん?目が覚めたのか?」
額と額を合わせてぐりぐりすると、後ろで見ていた瑠維の額に一際太い血管が浮いた。
『………そこらのバカップルみたいにベタベタしてんじゃねぇよ…っ!!』
無意識にギリギリ歯軋りしていたようで、弓削が肩を叩いた。
「瑠維様…堪えてくださいね?」
苦笑いして、苺を盛った皿を差し出す弓削。
「いつの間に盛ってんだよ…」
璃音以上に気配を読みにくい男だと、内心舌打ちをする。
「…いちご…?」
ぼうっとしたままの璃音が、瑠維の手に乗った皿を見詰めていた。
「つきひめ…」
「香りだけで当てるのはお前だけだな。
ほら、食いなよ」
目の前に置かれた皿に手を伸ばし、一粒口にする。
「おいしい…」
にこっ、と笑う璃音の顔に、瑠維も弓削もクラリとよろめいた。
「これは何て言う名前なんですか?」
弓削が少し大きめの粒を渡すと、
「あまあまだいおう…」
ウキウキしながら受け取る。
「そうなんですか、瑠維様?」
「多分。
こいつ、大好物は離れた所からでも嗅ぎ分ける」
「い、犬並みですか…?」
璃音は、次々渡される苺の品種を当てまくっていた。
ともだちにシェアしよう!