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「頭に栄養が取られてるって事か?」
「白川クリニックでの定期検診で指摘されたのですが、過去に何度か、栄養失調気味に陥った形跡があると言われています。
周期から考えますと、大抵かなりのハイペースで開発部門に詰めていたり、試作品で試行錯誤していた時期と一致しますので、あながち外れてもいないんです」
「それって、マズい訳…?」
「大有りです。
このまま体の成長が遅れたままなら、完全に成長が止まる場合も有り得ますし、場合によっては二十歳まで生きられない可能性もあると言われてますから…」
「………っ!?
璃音は、それ知ってるのか?」
瑠維の表情が険しくなる。
「はい。
旦那様と一緒に説明を聞かれましたから」
「………」
「とても淡々と受け止められてましたが、旦那様が出張で何日間か離れた時に、私に漏らされた一言は、かなり衝撃でしたよ。
『もし、本当にあと数年しか生きられないのなら、自分の中にあるすべてを形にして、龍嗣を喜ばせたい。
いつか飽きて棄てられるか、自分が涸れて死んでしまうまで、自分の有りったけを龍嗣に捧げる。
だから、このままでもいい。
時間に限りがあるなら、その分深く愛せるだろうから』と、おっしゃった…。
確かに、旦那様は移り気で飽きっぽい人間ですが、ここまでの深い愛情を向けられて絆(ほだ)されない訳がないんです。
実際、璃音様と恋人になってからは誰ともしていませんでしたし、気長に璃音様の体の成長を待っていた。
最終的には、焦れ焦れした璃音様に迫られ、というか、押し倒されて約半年ぶりに体を繋いだ訳ですけど…」
「………」
璃音が龍嗣に迫った実態の一部を聞かされ、心中穏やかではない瑠維。
弓削は言葉を続けた。
「多分、璃音様の深すぎる愛情は同年代の人間には重過ぎて受け止めきれません。
壊れ、歪んだ物だとしても、あれだけの深い情を受け止めるには、それなりの年齢差のある人間か、懐の深い人間でなくてはいけなかった。
水上の者の中にも、それだけの度量のある人間は数名いましたが、璃音様は氷室龍嗣だけを番いに選んだ。
一生に一人だけの最愛の人間を」
「………」
「一過性や、軽い気持ちではなく、深い愛情に裏打ちされた関係なのだと、判って頂けますか?」
弓削は、瑠維の反応を確かめながら言葉を継いだ。
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