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「成る程…。  記憶にも残らないくらい幼い頃に噛まれたから、なるべくあなたを無意識に刺激しないように振る舞った訳だ。  優秀なエンジニアの部分すらひた隠し、ごくごく普通の成長が遅れた子供を装い、大人しく振る舞わざるをえなかった理由が、一番畏れていた所にあったのなら、璃音様の行動に合点がいきます。  自分が噛んだ相手が、別の人間と番いになってしまっては、どういう反応が来るか解らないですからね…。  殊更、無意識に成長するのも拒んでいた一因は、体が小さければ、あなたから襲われずに済む。  一種の防衛本能だったと…。 『よく判らないけれど、何故だか瑠維が怖い』と、璃音様が漏らしてらした根拠はそこだったんですね…」 「まさか、鳶に油揚掻っ攫われてると思わなかったんだって…」  頭を掻いてごまかしてはいるが、龍嗣に先を越されたのと、璃音が倒れる原因を作ったという後悔が滲んでいる。 「今更、璃音様に手を出したりなさらないでくださいよ!?  やっと落ち着く所に落ち着いたんですから…っ!!」 「知るかよ…」  そっぽを向いた瑠維に、忌ま忌ましさを覚えつつも、弓削は頭の中で考えを巡らせる。 『さ…、最悪だ…。  直情馬鹿が、璃音様を噛んでいた…!!  近親噛みだなんて…。  万一の事があったら大変じゃないか…っ!!』  小鳥遊が璃音をつまみ食いした事よりも、更に事態は最悪な事になる。  やっと龍嗣と想いが通じて落ち着いた璃音を、混乱させたりするのは弓削の本意ではないのだ。  決して一線を越えさせてはいけない!!と、弓削は固く心に刻んだ。 「別に、璃音を困らせたりなんかしねーし…」  罰が悪そうに、ブチブチ呟く瑠維に、重ね重ね釘を刺さなくてはいけないのだが、匙加減を間違えば確実に塁は璃音に及んでしまう。  それだけは避けたい弓削だ。 「とりあえず、璃音様の事は、暫く見守っていて頂けると助かります。  二人分の情を受けてそつなく対応出来る程、璃音様は器用ではありませんから…」 「………」 「瑠維様、聞き分けて頂けませんか…?」 「……………………判ったよ…」  不承不承ながら受け入れた瑠維を、璃音達が眠る部屋から最も遠い部屋に通し、一先ず休ませる事にした弓削。  瑠維が寝静まったのを確認してから、瑠維の事を小鳥遊達に連絡を取る事も忘れなかった。

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