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体の成長が遅れている以外、璃音は普通の子供だと瑠維は思っていた。
初等部に入学して直ぐ、一日分の時間割に大学部の授業が混じっても、自由な校風ゆえのものだとしか捉えていなかった。
両親も璃音も、普通に学校での生活をするつもりでいたのだが、既に璃音の学力レベルは高校生を超え、大学レベルであったらしい。
大学部に飛び級させようかという話もあったという。
だが、飛び級するにしても、あまりに突出してしまうし、義務教育の制約もある。
そこで、学園側も奥の手を出した。
璃音などの規格外の子供達の突出した分野の授業時間を、大学や高等部の教授や教師に任せたのだ。
一見、学習指導要領に沿っての授業という事にしておき、実際は大学や大学院レベルの授業の日もあったが、璃音は淡々とこなした。
工業系の授業は璃音の好奇心を大いに刺激し、貪欲に知識を吸収し続ける。
夏休み前には工学部の教授預かりとなり、工学部門だけでなく、他の教科のレベルも引き上げる事になった。
その都度学園側から両親に連絡が入り、授業内容やレベルについての説明などがされていたようだが、瑠維はあまり追求せずにいた。
瑠維の前では、穏やかな普通の子供だったから。
年相応というより、更に無邪気で可愛らしく、瑠維についてまわった。
自分の傍にいるなら、どんな授業を受けていようと構わない。
璃音自身も、瑠維の傍にいれば普通の子供としていられるのを、望んでいると感じていた。
そして瑠維も、璃音と手を繋いで登下校する事が嬉しくて、何かが壊れるよりは、追求せずにいた方がいいと思ったのだ…。
「ねえ、るい?」
幼児特有の高い声で呼ばれるだけで、心臓が跳ねる。
「るい、これ美味しいねぇ…」
にこぉ、と、あどけない顔で笑いかけられると、軋む心が満たされた。
「るい…?」
寝入る前の潤んだ瞳は、軋む心を更に軋ませた。
無邪気な気持ちで抱きつくのは、璃音も素直に受け入れてくれる。
体を繋ぎたいと思いながら触れると、びくりと体を強張らせる弟に、瑠維は一層焦れ焦れした。
傍にいるだけで、満たされたり、引き裂かれる心を持て余し、切ない気持ちのやり場もないままで、瑠維は璃音を想い続ける。
それは、身の内にジワジワと毒を染み込ませるような行為でもあった。
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