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帰宅して頑丈な金属ケースを開けると、中に入っていたのは純度の高い氷に包まれた金属の筒だった。
「あのね、このストッパー外すの」
筒の蓋を外すと、中に入っていたのは、上質なバニラの香りがするアイスクリームだった。
「……え?アイス?」
「うん」
ほくほくした顔で、印を確かめながら一つ一つを説明する。
「これね、駅前のマリアージュの味で、こっちがパパスの味で…」
「一つ一つ味が違うのか?」
「そうだよ~」
蓋に付いたハンドルを回しながら微笑む。
「どうやって味を再現したのかな?
母さんとは、一緒に行った事ないだろ?お前」
母の問い掛けに、璃音がキョトンとしている。
確かに、一軒を除いて母と行った事が無い店のものばかりだった。
「ゼミのお姉さん達のお土産で食べたの。
マリアージュのは生クリームの割合が多くて、パパスのは卵黄が一個分多いよ。
あと、ラメールのは、お店のおじさんに教えて貰ったけど」
「「普通、作り方は教えないだろ…?」」
絶句する母と兄に、璃音がニコニコしながら驚愕の事実を告げた。
「『お願い、教えて』って言ったら、ちゃんと教えてくれたよ」と。
二人は、目の前に見えるようだと思った。
仔犬のような潤んだ目をして、ケーキ屋の主人をみつめて聞いたのだろう。
家族は免疫が出来ているが、一歩外に出れば、璃音の瞳に見つめられて逆らえる人間はいない。
チワワかトイ・プードルの仔に見つめられてクラリとよろめく女性のように、大抵の人間は鼓動が跳ね上がる。
ラメールの主人は小動物に弱いので、殊更メロメロだったことだろう。
ただ、璃音にはその自覚がないのだが…。
「璃音、『お願い』は、なるべく外でするな。
解ったな?」
背中に冷や汗を流しながら、母は璃音を窘める。
良く意味は判らないが、璃音は素直に頷いた。
そして瑠維は…。
無邪気で危機管理に難のある弟を、如何にして外敵から護るかを考えねばならなかった。
自分が手を付ける前に、見知らぬ誰かに不埒な真似をされては敵わない。
適度な警戒心は持って貰わねば!!
焦れ焦れしてる場合じゃ無い。
兄として、璃音を護らねばならないと、瑠維は心に決めた。
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