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ダイニングで弓削が煎れてくれたエスプレッソを飲みながら、瑠維は一息ついた。
璃音の好きな例のアレを作り終え、後は仕上がりを待つばかりなのだが…。
一向に起きて来ない璃音と龍嗣。
『まさかとは思うけど、朝っぱらからサカってねーだろーな…』
瑠維のヒクつく頬を、弓削がしっかり見ている。
弓削は龍嗣が璃音にがっついているのを知っていたので、敢えて黙っていた。
瑠維、弓削、猫がそれぞれ喋りにくい状態の所へ、龍嗣が璃音を連れて入ってきた。
勿論、がっついたままではなく、朝風呂でスッキリした状態で。
「おはようございます、璃音様」
キッチンから弓削が声をかけると、璃音が龍嗣の腕から降りた。
「おはよう、弓削さん」
少しよろけながらダイニングを横切り、瑠維の向かいに座る。
「おはよ、瑠維」
「お、おう」
昨日の朝の艶っぽさや、昨夜の寝ぼけて幼い璃音とも違う穏やかな顔を見て、瑠維は少しドギマギした。
妙な違和感を感じながら璃音を見ていた瑠維は、ハッとした。
生まれる前から感じていた、璃音の甘い香りが消えている。
「なぁに?」
不思議そうに笑う顔も、子供子供したものの中に、純真さや無邪気さに混じって何かがある。
それが何なのかは瑠維にも見当がつかないのだが、璃音の中に何かがあった…。
「あの、そのさ、メシ食えそう?
俺、マリアージュの作っといたけど…」
「瑠維のアイス食べたいな…。
何のフレーバーがあるの?」
「バ、バニラとストロベリー・チーズケーキと、キャラメルリボンだな…」
瑠維の言葉に、璃音の表情が変わった。
「全部僕の好きなフレーバーばっかりだね…。
ありがとう、瑠維」
ニコッと笑う顔に、心臓が鷲掴みされたような気がする。
『な、何だよ…、母さんそっくりな顔で笑ってさ…。
いきなりっつーか、コロコロ表情の具合が違うと、対応のしようがねーだろーが…』
下を向いて、ジーンズの腿の辺りを摘んだり捻ったりする瑠維。
別の意味で焦れ焦れしている瑠維の姿に、弓削が吹き出しそうになって、キッチンに引っ込んだ。
『何だかんだ言ってても、璃音様の変わり様にドギマギするあたり、まだまだ純情ですねぇ』
密かにクスクス笑いながら、瑠維が持参した苺やブルーベリーを皿に盛った。
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