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 診察を終えて帰宅すると、弓削が「仕方ないですね」と苦笑し、夕食の時間を早める手配をしてくれた。  夕食が出来るまでの間、明日からの学園祭で使う物を準備したり、宿題をする。  帰宅した瑠維も混ざり、リビングで予習をしている内に、瑠維の手が止まった。 「う…っ、訳が分かんねえよ…。」  数学の予習をしているのだが、途中で判らなくなったのだ。  5教科の宿題を終え、一息ついた璃音が瑠維のテキストをジッと見ている。 「璃音様、お手伝いは駄目ですよ?」  背後から足音もなく忍び寄り、弓削がサックリと突っ込む。  今にも手が出そうだった璃音が、びくりとして固まった。 「と…、解いたりしないけど、途中まで教えるのは駄目?」  ビクビクしながら振り返り、弓削にお伺いを立てる。 「普通は逆なんですがね…。  絶対最後まで解かず、ヒントを差し上げるなら良いと思いますよ」 「は~い…」  肩を竦めて、璃音が瑠維のテキストに手を伸ばした。 「…だからね、こっち側に持ってきた記号を0に見立てて掛けて、数字を無くすの…。  それでね…?」 「ん…、ん~?  ああ、そっか…。消してから、こっちの記号をそっちに回せばいいのか?」 「うん」  やっと納得したらしい瑠維が、問題を解ききった。 「出来た!!  サンキュ、璃音。助かったぜ~。  何つーか、先生より解りやすかった!!」  基本問題を解き、今度は応用問題に取り掛かる。  瑠維の眉間の皺が無くなったので、璃音はホッとした。 「お疲れ様でございます」  弓削がミルクティーを璃音に差し出した。 「ありがと、弓削さん」  ニコニコしながら受け取り、一口飲む。 「璃音様は教えるのがお上手なんですね…。  大抵身内に教える場合は、喧嘩になるか、怒鳴るかのどちらかになるものでしょう?」 「そ、そう…?」 「私も弟に教えた事がありましたが、最終的にブチ切れてしまいまして、教えるどころではございませんでしたよ」  少しずれた眼鏡を直す弓削に、璃音が微笑む。 「コツはね、身内に教えてるって思わない事だって、父さんが言ってた。  母さんが瑠維に切れて怒ってる時にね、"他人様の子"って思えば腹も立たないよ、って」 「自己暗示ですか…?」 「そうみたい」  荊櫻の切れっぷりを想像して、笑いを一生懸命堪える弓削なのだった。

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