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自己嫌悪と、璃音への後ろめたさがないまぜになった頭の中が、思考停止したまま固まっている。
薄い胸と華奢な腕に包み込まれるように抱きしめられるという、璃音の思わぬ反応に余計に自分が反応出来ない。
「あのー……」
言葉すら続かない龍嗣。
「……………」
何を言えばいいのか、どう説明したものか、皆目見当がつかない。
自分の兄だけでなく、父親までが恋人のストライクゾーンの直球ど真ん中だったなんて、璃音にとってショックだった筈だ。
最大の地雷を踏んだ!!
それも、超メガトン級の地雷を踏み抜いた!!
ましてや、成長不全の、まだ中学生の子供にがっつきまくって、いかがわしい行為をしまくって…。
それなのに、元々の好みが違うのが、今もそうだと思われてしまったら…。
元々純真な子供の璃音が受けるショックたるや、考えるだに恐ろしい。
棄てられる…。
間違いなく自分は棄てられる…っ!?
確実に、間違いなく、璃音に呆れられて棄てられる…!!
頭の中に渦巻くのは、「璃音に棄てられる」という言葉だけだ。
冷や汗と脂汗がダラダラと流れ落ちている気がする。
そんな風に固まった龍嗣の耳元で、微かに空気が動いた。
クスリ、と。
「怒ってないよ…」
クスクスと笑い、優しくこめかみに口づけられる。
考えてもみなかった反応に、龍嗣は目を見開いた。
「………はい?」
驚いて、恐る恐る覗き込んだ顔は、怒っている訳でなく、泣き顔でもなく、悪戯っぽく笑っている。
「怒ってないもん」
にこりと笑い、龍嗣の頬にキスを落とす。
「………はい?」
意外過ぎる璃音の言葉に、ますます混乱する。
「怒って…ない?」
「怒るって言うより、思い出してビックリしただけ。
それに、龍嗣が婚約指輪を渡したのは僕だけでしょ?
父さんや瑠維が好みだったとしても、最終的に僕を番いとして選んでくれるなら、それでいい…。
なんて思うのは、変かな…?」
龍嗣に凭れるようにくっつく璃音の表情は、この上もなく甘く、無邪気さと小悪魔が同居しているようだ…。
「あ…、あの…」
「それとも、ただ仕方なく指輪をくれたなんて言わないよね?」
「それはない!! 絶対それはないぞ?
本気で君に渡し…」
言葉は最後まで続かなかった。
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