185 / 454

 ふ………っ。 「あの指輪は、本気で君に渡した」と言おうとして、言葉は途切れてしまった。  突然、視界が黒く塗り潰されてしまったから。 「え…?」 「停電みたいだね。  龍嗣、ちょっとの間、目をつむって」  パシャリと音がして、璃音の手が頬に触れた。 「窓から見た感じだと、ここら辺一帯が停電してるみたいだよ?」 「見えるのか?」 「うん。夜目が利く方だから割りとね…。  そろそろいいかも…」  目を開けると、暗がりの中、うっすらと璃音の体の輪郭が見える。 「ね、明かりが消えたから、少し星も見えるよ」  促されて見た先には、雲間から星が覗いていた。 「本当だ。  星なんて、久しぶりに見たような気がするな」 「たまには停電もいいかもね」  璃音が少し窓を開けると、冴え冴えとした初冬の空気が流れ込んできて、のぼせかけた肌を冷ましていく。  雲の隙間から差し込む月光が、出窓に手をついて空を見上げていた璃音を照らし出した。  穏やかに笑う顔も、仄かに光るように見える体も、すべてが龍嗣をひきつける。 「なぁに…?」  クスクス笑う璃音を引き寄せて、腕の中に抱き込むと、馴染んだ肌触りが安心感を与えてくれた。 「何と言うか…その…  好みの話しとか…、もう時効だからな?」 「ん?」 「今は、君が好みで…だから…」  もごもごと口ごもる龍嗣の様子を、璃音はじっと見ている。 「……言ってよ、その先…。  龍嗣の気持ち、聞きたい」  そう言われると、余計に墓穴を掘りそうで、龍嗣はますます口ごもる。 「う……」  口をぱくぱくさせるしか出来なくなり、再び冷や汗が流れている気がしてきた。 「じゃあ、落ち着いたら教えてね」  あまりに動揺する龍嗣が可笑しくて、璃音は笑うのを堪えてじっと待っていたのだが、堪え切れずに助け船を出した。 「……あ、ああ」  龍嗣の顔を下から覗き込んでいた璃音は、あからさまにホッとした隙をつき、無防備な唇を軽く啄む。  チュッ。 「「ん……」」  月明かりの中で、深く、浅く唇を啄み合い、自然に舌が絡まり合う。  龍嗣が璃音の舌根を突けば、璃音は龍嗣の上あごをなぞる。  璃音が龍嗣の舌を搦め捕れば、龍嗣は璃音の舌を引きずり出し、唇で甘く噛んだ。 「龍嗣…だい…すき…っ」  吐息混じりの声は、どこまでも甘かった。

ともだちにシェアしよう!