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「何処にいたって、璃音は夜目が利くから呼べば出て来る筈だろ?」 「……ええ。  何度かお呼びしたのですが、全く応答もいたしませんので…」 「寝てんのかな…」  怪訝に思い、璃音の部屋を覗いてみる。 「……」  ベッドは使われた形跡もなく、椅子も机も整然としており、どう見ても部屋にはいない。  弓削が書斎を覗きに行ったが、同じく無人だったようだ。 「リビングもダイニングも部屋も書斎もいないっつーことは、答えは一つなんじゃねえの?」  憮然として指摘すると、少し複雑な顔をする弓削。 「旦那様の部屋…でしょうね…」  深い溜息をつく。 「白川先生からは、最後までするなときつく言い渡されてはいますが、行為の真っ最中に踏み込んだら洒落にもなりませんね…」  敢えて踏み込まずに放置したいと、暗に匂わす。 「とりあえず、ドアに鍵が掛かってたらヤってると判断すりゃいいんじゃねえの?  つか、禁止されてんだろ?  止めなきゃまずいんじゃねえのかよ」  身も蓋も無い返答に、益々苦虫を噛み潰したような表情になる。 「面倒ですね…」  ブツブツ言いながらも、仕方なく龍嗣の部屋のドアノブを回してみる。  キシ…。  施錠されてもおらず、静かにドアが開いた。 「…旦那様……?」  潜めた声で呼びかけるが、返答はない。  ソファにも、デスクにも姿はなく、残るは寝室だ。  慎重にノブを回すと、今度もさしたる抵抗もなく、ドアが開いた…。 「「………?」」  椅子の上、ベッド、ベランダなどを確認するが、どちらの姿もない。  ただ、ベッドカバー等が微妙に乱れた形跡があり、どちらかがいたか、二人ともこの部屋にいたのだと推察できた。 『残ったのは、どう考えてもあの場所…。  まずいな…完全に出歯亀なんじゃないだろうか』  瑠維を促し、部屋を後にした方がいいのではと思案している間に、瑠維はもう一つのドアを開けた。 『…洗濯機にカゴ?まさかな…』  更に手前にあるドアを開けると、ふわりとした蒸気とともに、甘い花の香りがする。  そして、微かな水音や吐息も。 「………璃音?」  ライトを向けると、バスタブの中で二人が深く舌を絡ませ、淫ら過ぎるキスをしていた。 「なっ、何やってんだよ!!」  響いてきた瑠維の声に、後ろで弓削が身を硬くした。

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