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「なっ、何やってんだよ!!」
瑠維の声に、弓削は『ああ、やっぱり…』と額に手を当てた。
ズキズキする額を押さえ、溜息をつきながら脱衣所に入ると、丁度二人が名残惜しそうに唇を離した気配がする。
月明かりの中、うっとりと龍嗣に寄り添う璃音は、何処か少女めいていて可愛らしく見えた。
「何って…、いい雰囲気だったから、ベロチューしてただけだよ?」
「そんなもん、されてんじゃねえっ!!」
あっさりと言い張る弟に、瑠維が切れた。
「されたんじゃなくて、僕からしたんだよ?
ね~?龍嗣」
流石に罰が悪いのか、龍嗣は即答を避ける。
「すんな、そんなもん!!」
背中の毛を逆立てる猫のような剣幕の瑠維は、璃音に雷を落とし続ける。
いつもは素直な璃音が、今夜に限って瑠維の言葉を聞き流したり受け流したりと、全く受け入れる気配がない。
「白川先生からお預け喰らってたし、えっちいキスも我慢してたから、僕だって焦れ焦れしてたんだもん。
たまたま雰囲気が良くなっただけだし、最後までしてないんだから、そんなに怒らなくてもいいでしょ?
それとも、瑠維の許可が無ければ僕ってキスも出来ないワケ?」
少し拗ねたような顔をして、瑠維に噛み付く璃音。
頬を膨らませているのだが、それもまた可愛らしい。
「だからっ、同じするにしても、あんなべろっべろにやらしいのは論外だろ!?
万一、オッサンの理性がぶっ飛ばねぇとも限らないんだぞっ!!」
「これ位ので飛ぶ訳ないでしょ?
治療が始まってからずっと、僕の体力を考えて繋ぐの我慢してくれてるんだよ!?
見境無しのケダモノ扱いはやめて!!」
普段ののんびりした口調ではなく、拗ねて食ってかかる璃音の様子に、流石に三人が各々困惑し始めた。
「璃音、そこまでにしておいてやれ…」
「やだっ!!
龍嗣がケダモノ扱いされたり、オッサン扱いされるの、僕は嫌だ」
宥めようとする龍嗣の顔を見上げ、口を尖らせる。
「瑠維は、君を心配して言ってくれてるんだから、聞き分けてやろう?」
「やだ」
「実際、君にがっついてるのを見られてるから、疑われても文句は言えないんだ。
瑠維、私から謝っておくよ。 すまん」
「いや、別に、オッサンに謝らせようとか違うし…」
まさか、龍嗣が自分に助け船を出すとは思わず、瑠維は面食らった。
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