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「別に、オッサンに謝って欲しいとかじゃない。  ただ、璃音はまだ中学生なんだ。  こいつが、大人顔負けのやらしい事を、したりされたりってのが…兄弟として、俺は我慢できねぇだけで…」  本当は「兄弟として」じゃなく「首筋を甘噛みした相手」として我慢がならないのだが。  あんな淫らな口づけをする相手は、父親と同じような年回りの男じゃない。  自分の筈なのだと思う…。 「君の気持ちも解らないでもない。  ましてや、たった一人の弟の成長が遅れて、寿命のリミットを切られた事もあったから、心配だろうし…」  璃音の頬を撫で、目配せをするが、不機嫌な璃音は視線を逸らす。 「瑠維様…、そろそろ引いて差し上げては…?  ある程度の所で切り上げませんと、璃音様が茹だってしまいますよ?」  弓削が頃合いを見計らい、瑠維を促す。  今まで見たことがない璃音の拗ねっぷりに、瑠維と龍嗣のどちらかが何か地雷を踏んだのかもしれない…。  そう感じ取ったのもあり、弓削は瑠維を引かせるのが先だと判断したのだ。 「璃音…、父さんも母さんもいなくなって、俺にはお前しかいないんだ。  父さん達に代わって、俺がお前を守ってかなきゃなんない。  だから、聞き分ける所は聞き分けろ。解ったな…?」 「璃音?  瑠維に返事を…、………っ?」  龍嗣は言葉が続かなかった。  俯いていた璃音の顔が、今まで一度も見たことが無い表情だったからだ。 「父さん達に代わって…」という瑠維の言葉が出た瞬間、璃音の表情が強張り、………いや、凍り付いたように見える。  抑え切れない灼熱の怒りが、璃音を無表情にさせたかのようにも思えた。  珍しく「切れた」とおぼしき璃音を抱き寄せ、硬い表情を瑠維から隠す。 「複雑な部分があるだろうから、私から言い聞かせる。  それでいいか…?  そろそろ上がらないと、璃音が湯あたりしてしまうから、瑠維もここまでにしてやってくれ」 「?………あ、ああ…」  瑠維も仕方なく引き下がり、龍嗣の寝室の方へ戻った。  ぱたん。  ドアが閉まる瞬間、璃音の押し殺したような声が聞こえた。 『あの二人の事を言う権利なんか無い癖に…』と。 「璃音…?」俯いた顔は、苦々しいというより底が無い哀しみに満たされて、一筋の涙が零れ落ちていった。

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