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「ん…ぅっ」
苛む痛みに、璃音が身じろぐ。
「痛い所は何処だ…?」
「ここ…」
痛みに乱れる呼吸の璃音を宥めるようにして、龍嗣は背中を優しく撫でる。
「そうか、此処だな?」
ギシギシと軋む璃音の体を摩ってやり、痛みを和らげていく。
「こ………っちも…」
伸ばした腕の軋んで痛い場所も、ゆっくり摩る。
痛みに乱れたままの呼吸が、一層切なげになった。
「ん………っ、んんっ!!」
体を丸め、シーツをきつく握り締める手が、力が籠められる度に真っ白になる。
「はぅ………っ!!」
軋む痛みに、背中が丸くなるのを見て、瑠維の表情が険しくなった。
「俺もかなり痛かったけど、どんだけ痛いんだよ…」
『大袈裟なんじゃね?』と、暗に匂わす瑠維を隣室に引っ張り、弓削が声を潜めながら説明した。
「小振りな金づちで、関節という関節を叩かれているような状態だそうです。
ここ何日か、かなり痛みが倍増しているようですので、決して大袈裟な訳ではないんです。
成長のスピードが上がった分、痛みが増えてますから…」
「んあ…ぁ………っ!!」
寝室から響く声は、一瞬瑠維を惑わせる。
痛みなのか、龍嗣に鳴かされているのかが区別出来なかったからだ。
「鳴かされてる訳ではないですよ………?」
硬直する瑠維に、弓削が釘を刺す。
「い…っ、ぁ…っ!!」
痛みに掠れた声が、一層切なげに聞こえた。
「痛み止めの薬とか使えねえのかよ…」
「必要最低限に抑えたいからとおっしゃって、璃音様が使いたがらないのですよ。
内臓に負担もかかりますからね…。
今夜は流石に使うでしょうけれど…」
視線を寝室へ向け、弓削は溜息をつく。
「身体的な痛みもあれば、精神的な痛みもあります。
ましてや、もうすぐご両親の一周忌ともなれば、不安定にもなるでしょう?」
「あ……」
「突然の事故で亡くなった両親の葬儀を仕切ったことも、あなたが入院したことも…。
あの時は、たった一人で対応せねばならなかった。
14歳の子供にとって、受け止め切れるものではなかった筈です。
旦那様に深く愛されたとしても、消える事の無い傷もあるでしょう…。
どれほど天真爛漫で無垢で無邪気に見えたとしても…」
「………」
忙しさや、璃音への想いが深くて、すっかり記憶の底にあった事を、弓削の言葉でようやく思い出した瑠維だった。
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