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「どっちに怒りを覚えたのですか?」という弓削の問いは、瑠維の思考を停止させた。
璃音の幼くとも、深い愛情を向けられて受け入れた龍嗣なのか。
自分の愛情ではなく、龍嗣の愛情と欲望と体を受け入れた璃音に対してなのか。
………どっちなのか。
「………知るかよ…」
一人ごちる。
どちらへの怒りなのか、それとも嫉妬なのかと問われても、瑠維にはまだ見当がつかないのだ。
そして、その問いは弓削の心にも当て嵌まるのだと、瑠維は知らない。
『我ながら、悪趣味な問い掛けでしたかね…』と、苦笑いしながらドアを閉めた弓削は、ポケットに入れていたピルケースを取り出した。
「ん……、んぅっ!!」
背中を丸め、痛みを逃がそうとする璃音の体の向きを変えてやり、龍嗣は華奢な体を腕の中に抱えた。
「や…、痛い…から、離して…」
痛む腕を突っ張り、龍嗣の腕から逃れようとするのだが、力が入らずに抱き込まれる。
「璃音、キツイんだろう?
痛み止めを飲まないと、体力も削られるぞ?」
軋む体を摩る手を止め、龍嗣は弓削から渡された錠剤を璃音の口に含ませた。
「ん…っ」
体を起こしてペットボトルを手に取ろうとしたのだが、指自体に力も入らず取り落とす。
落としたボトルをもう一度掴むのだが、掴み切れずに落としてしまう。
「に…、にが…っ!!」
鎮痛剤が口の中で溶けはじめたせいで、半泣きで再度掴もうとするのを龍嗣がベッドに押し倒し、ミネラルウォーターを口に含む。
「ん…っ、んんっ」
薬の苦さにジタバタと暴れる璃音を押さえ込み、口移しで流し込んだ。
「や…、…んっ」
龍嗣が体重をかけて押さえ込み、もう一度口移しで水を飲ませる。
「ん………っ、ん…ぅ……っ」
水を流し込んだ後、そっと離れた唇は、一度だけ璃音の唇を啄んでいった。
優しく、淫らさの欠片もない啄みは、穏やかなのに璃音の体の芯を灼いていく。
「は………っ」
はくはくと喘ぎ、ベッドに沈むように横たわるり、尚も関節を苛む痛みを逃がそうとする。
鎮痛剤が効くまでは、今暫く堪えねばならない。
そんな璃音の目から零れていた雫を、龍嗣が吸い取る。
目尻、頬、顎へと伝う唇は、自然に璃音のそれと重なった。
恭しい口づけは、ほんの少し涙の味がした…。
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