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「………?
眼鏡の有る無しで、そんなに違いますか?」
「そうね…。
四角四面のカチコチなイメージとは違うワ。
何て言うか…表情が柔らかいし、綺麗よ?」
人間の様に、両足を前に伸ばす形で座った猫は、もう一口、ミルクティーを飲む。
暫し沈黙が横たわる。
普通、一般的な男性には使わない表現なのだが、敢えて猫は「綺麗」と言った。
「綺麗な顔立ちなのに嫌味が無いのよね…。
細身で身のこなしも遜色無いし、でも、見た目通りじゃないワ。
そのさりげなくついた筋肉は、伊達じゃないんでしょ?」
「買い被り過ぎではありませんか?
私はただの秘書に過ぎませんよ」
フワリと笑い、カップをテーブルに置く弓削。
「あら、荊櫻の従兄弟だけあって、綺麗な顔立ちしてるし、あのエロ魔神を掌の上で転がして、上手く手綱を捌いているくせに。
それに、あのフェロモン駄々漏れで、エロ魔神に尻尾ぶんぶん振りまくりの璃音が、必要以上に暴走しないでいられるのも、アナタがいるからじゃないの」
猫が意味ありげな笑いをし、弓削は目をしばたたく。
「………気のせいでは…?」
「いいえ。
有能じゃなきゃ、エロ魔神の代わりに会社を回したりなんかできないわよ。
実際、アナタを信頼してるからこそ、あの男も好き勝手も出来てるんじゃないの。
荊櫻だけじゃなく、晶までがアナタに全幅の信頼を置いていたって事、忘れない方がいいワよ?」
文字通り"ニヤリ"と笑って、猫はミルクティーを飲み干した。
「大体、十代でMBA取得したり、マーシャルアーツをマスターしちゃってる人なんて、普通じゃないワよ。
実際、全幅の信頼が無ければ、ここまで丸投げしたりもしないでしょ?
そうなんじゃない?エロ魔神」
「………?」
弓削が振り返ると、リビングの入口に龍嗣が立っていた。
「中々鋭い所を突いてくれる…。
ま、信頼しているのは嘘じゃない。
弓削にはあまり信用されてないけどな…」
苦笑いの龍嗣は、猫の隣に座る。
位置的には、弓削と斜向かいだ。
「とりあえず、何かお飲みになりますか?
忙殺されていて、報告しそこねた案件がたっぷりありますからね?」
「…エスプレッソをくれ。
あれが一番飲みたい」
「かしこまりました」
弓削は音も立てずに立ち上がった。
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