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風花が散らした聲

 月見里(やまなし)学園都市の学園祭…初雪祭は、三段階方式の公開だった。  一日目が各学部公開、二日目が学園内部公開、三日目が一般公開となっている。  初日と二日目をこなし、ようやく三日目…。  龍嗣、弓削、依留、優、白川医師などが見に来るとあって、心持ち、璃音も緊張していた。 「そういえば、日下部先生の前で『龍嗣』って呼んだらまずいよね…?  なんて呼べばいいのかな…」  ダイニングで食後の薬を飲んだ璃音が、隣に座る龍嗣に問い掛ける。 「そうだな…。  どう呼ぶのがいいんだろう…」 「『オッサン』でいいだろ?」 「駄目っ!!」  何気なく言った瑠維を睨み、璃音は頬を膨らませる。  メイドのコスチュームをしているので、可愛らしいことこの上ない。  璃音のツインテールが揺れて、フワリと甘い香りが龍嗣の鼻腔を擽った。 「『パパ』だとおかしいし…、どうしようかな…」 「『おとうさん』でどうでしょう?」  弓削が助け舟を出した。 「おとうさん…?」 「ええ。 『パパ』だと愛人っぽく聞こえますし、『オヤジ』や『オッサン』も嫌でしょう?  なので、無難なところで『おとうさん』なら、今日一日くらい持つのではと…」 「おとうさん…、龍嗣は今日だけおとうさん…」  咄嗟に「龍嗣」と言ってしまわないように、璃音は何度も言い直す。 「そこまで気を使わなくても…」  コーヒーを口に運び、龍嗣が苦笑いをする。 「だって、僕のせいで龍嗣が嫌な思いしたり、困った事になるのは嫌だから…。  そこ、重要だもん。  ましてや、間違えて『番いの相手です』なんて言ったら、僕、どっかの施設に連れてかれちゃうよ。  ボロをだす訳にはいかないでしょ?」 「行くの…やめようか?」 「それも嫌。  こそこそするの、絶対に違うと思うし」 「そういうものなのか?」 「ん………。  僕の勝手な思い込みかも知れないけど、龍嗣と暮らすの否定されたくないし…」  何度も「おとうさん」と復唱し、落ち着いたところで鞄を手に取った。 「じゃ、行ってきます」 「ん、行っておいで」  龍嗣の頬に軽く口づけて、璃音はパタパタと走って行き、いつもの車のキーを持った弓削も璃音の後ろを追う。  瑠維も慌ててダイニングから出て行った。 「楽しんでおいで」  龍嗣が苦笑いして見送った。

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