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弓削が駆る車のリアシートで璃音は何度もリピートする。
「龍嗣は…おとうさん。
今日だけ…おとうさん…おとーさん…」
「お前、土壇場で『龍嗣』って言いそう…」
「やめてよ、本当に呼びそうな気がするから…っ。
龍嗣は…おとうさん。
今日だけ…おとうさん…おとうさん…」
呪文のように繰り返す。
「つか、オッサン呼び捨てするより、顔見て抱きつくなよ?
尻尾ぶんぶん振りまくって抱きついて、いつもみたいにベロチューなんかしてみろ、マジで担任倒れるからな?
絶対的にそっちがマズいんじゃねえの?」
「「………っ!!」」
璃音と弓削は戦慄した。
確かに、呼び捨てならごまかしが利くが、嬉しさのあまりに抱きつきキスでもしたら、完全にごまかしが利かなくなる。
「璃音様…我慢でございますよ?」
「うぅ………、頑張る…」
あうあうと、頭を抱える璃音を弓削が励ます。
「頑張って耐えたら、きっとご褒美が出ると思いますので、堪えてくださいね?」
メイド姿の璃音が焦れ焦れウルウルしているのを、これまた瑠維が焦れ焦れして見ている。
「俺、二日間頑張ったから今日フリーだし、お前のトコ出張しようか?
危ない橋渡りそうな時に止めてやれるかもよ?」
「………いいの?」
「あ―、うん。
担任から生活指導に回されでもしたら、お前本家に缶詰めされちゃうかもしれないだろ?
そんなの嫌だしさ。
抱きつきベロチューしそうになったら、止めてやるし」
「ありがとう…っ」
「私も、出来うる限り璃音様をお止めいたします。
ああ、万一の旦那様の暴走も考慮に入れておきましょうね?」
「弓削さん、ありがとう…」
一点の曇りもない、無垢な瞳を潤ませ、璃音はようやく微笑んだ。
「「……………っ!!」」
その微笑みが、弓削と瑠維の心を激しく揺さぶる。
『ぬ…、ぬあああっ!!
そんな子犬みてえな顔されたら、このまま押し倒したくなるだろ!?』
『バックミラーごしでも危険な微笑みですねぇ…。
ああ、可愛いすぎて襲いたくなります。
最近、私が触れても反応すらしないのが業腹ですが、こんな無垢で可愛らしい眼差しを向けて頂けるなら、私は何でもしますよ、ホントに!!
ああ………っ、襲いたい、押し倒したい…っ!!
でも、旦那様のようなケダモノにはならないように自重しないと…っ!!』
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